「お前じゃ無理だ」から這い上がった鷹育成出身右腕 飛躍の「原動力」とは

ソフトバンクは8日の楽天戦でレギュラーシーズンの全日程を終えた。プロ初登板からプロ初勝利、そして積み上げた8つの白星。大きな飛躍を遂げた石川柊太が、支配下登録選手として初めてのフルシーズンで得たものとは――。

ソフトバンク・石川柊太【写真:藤浦一都】

ホークス石川柊太が飛躍のシーズンで得た自信と課題

 ソフトバンクは8日の楽天戦でレギュラーシーズンの全日程を終えた。プロ初登板からプロ初勝利、そして積み上げた8つの白星。大きな飛躍を遂げた石川柊太が、支配下登録選手として初めてのフルシーズンで得たものとは――。

 春季キャンプでA組に抜擢され、オープン戦でも結果を残した石川は、開幕1軍の切符を自らの力で勝ち取った。プロ初登板は4月4日、仙台での楽天戦。1回を3者凡退に抑え、銀次から初めての三振を奪った。4月15日のオリックス戦では2回3失点でプロ初黒星を喫するが、5月16日にはプロ初ホールドを記録。そして5月31日の中日戦でプロ初先発を果たすと、6回を無四球の2失点に抑えてプロ初勝利を挙げた。そこから力強いストレートとパワーカーブを武器に、先発で6勝、中継ぎで2勝を積み上げて8勝3敗、防御率3.29の成績でシーズンを終えた。

 昨年7月に育成から支配下登録された石川にとって、初めてのフルシーズンの経験。レギュラーシーズンを振り返り、石川はまず自らが感じた課題を口にした。

「1年間戦い切る辛さや難しさを痛感したシーズンでした。1年間1軍で活躍し続ける必要がある中で、自分の調子とか体調を安定して維持させることの難しさを感じましたね」

 この課題をどうクリアしていくのか。石川の頭の中には、すでに来季に向けた青写真が存在するという。

増やした「引き出し」、「どれだけ悪いなりにやれるか」

「オフの過ごし方をもう1回見直さないといけないなと思っています。シーズンが終わっての反省は反省として、すぐに来年どうするのかを考えていかないと後手後手に回ってしまうので。まずは土台作りというか、身体のタフさに関してもう1つ器をでかくしていかないといけないと思っています。自分のようなタイプでは、シーズン中にその器を大きくすることは無理だなと感じたので、まずは肩と肘を鍛えて強くしていきたいです」

 また、シーズンを通して工藤公康監督から「引き出しをたくさん持っていれば、悪くなった時に違う引き出しを使ってアプローチすることができる」というアドバイスを受けてきたという石川は「この1年で引き出しは増やせたと思う」と一定の手応えを感じたとも話す。「そういう引き出しをどんどん増やしつつ、フォームの安定感をもっと出していけたら、肩や肘への負担も軽減されると思っています」と、来季は技術的なアプローチについても進化を目指す。

 では、石川が今シーズンの経験から得たものは何だったのか。

「自分が1軍で通用するものを持っていると確認できたことが大きかったですね。でも、それを出せるか出せないかというところの戦いが大変だと感じました。悪い時にどれだけ悪いなりにやれるかということが、(調子の)波を少なくする条件だと思います」

 積み上げた8勝と5つの貯金、東浜巨や千賀滉大を凌ぐ被打率の低さについて「数字的には自分の目標を大きく上回っているところはある」と語りながらも、やはり石川はそこから見える課題を語る。

「目標をクリアしていけば次の目標が立っていくわけで、終盤の失速はやっぱりダメですね。『よくやった』と言ってくれる人はいますけど、そういう成績だと生き残っていけない。不調が続いてもがき苦しんでいるところはあるけど、ただ単にやっているだけでは何にもならないので、しっかりもがき苦しむのも大事かな、と」

成長の転機となった初先発初勝利、「あれで新しいスイッチが入った」

 春季キャンプの序盤、A組に抜擢されたことに対して「田中(正義)の話し相手として呼ばれたんじゃないですかね」と、創価大学の後輩ルーキーをネタに自虐的ジョークを語っていた石川も、今では言葉の端々に成長の度合いがうかがえる。そんな成長の転機となったのは5月31日の初先発初勝利の一戦だという。

「初先発で思い切りいって無四球で試合が作れたことで、新しい自分が出てきたと思えましたね。あれで新しいスイッチが入ったと感じたところはあります」

 育成選手として2年半。背番号138を背負って懸命に投げてきた。「結果的には育成でよかったと思います」と石川は語る。

「期待されるより、期待されている他の人を見ながら『何クソ』と思う方が自分らしい。高校でも甲子園に行ったわけじゃないし、進学時に『お前じゃ無理だ』と言われた大学もありました。創価大学に行っても3年まで公式戦で投げたことがなかった。そういう道を辿って、育成と支配下の対応の違いも目の当たりにしてきました。でも、そういうことが自分の原動力になっていると思います。がむしゃらにやってきたのがよかったと思いますが、そのがむしゃらさをこれからも忘れちゃいけないと思っています」

 甲斐拓也とともに、千賀に続く育成の星として大きな飛躍を遂げた石川。これから待ち受けるポストシーズンでも、飛躍のシーズンの集大成としての活躍を期待したい。(藤浦一都 / Kazuto Fujiura)

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