平川の秘湯「温川山荘」再生へ 鳥取の会社社長が改修に汗

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福地さんお気に入りのヒバの板を張った浴場。窓からは新緑、紅葉が楽しめ、浅瀬石川のせせらぎを間近に感じることができる

 山あいの秘湯として根強い人気を誇りながら2014年8月に閉鎖した青森県平川市の温泉「温川山荘」が10月、日帰り入浴で3年ぶりの営業を始めた。まだ汚れもあるが、古びた施設を再生に導いた鳥取市の会社社長・福地隆史さん(48)は自ら汗を流して改修しただけに「十和田湖に通じる西の玄関口として人の流れをつくりたい」と意欲的。将来は旅館に-と夢を抱く。

 10月上旬、黒石市中心部から車で国道102号を通り十和田湖方面へ30分余り。浅瀬石川のつり橋に掲げられた看板「温川山荘」の味わい深い文字が出迎えた。建物に入ると湯上がりの女性2人組とばったり。

 その1人、川崎市の会社員で温泉観光実践士、温泉ソムリエ等の肩書を持つ釜朋香さん(52)は「においが、『甘く』独特。お湯が柔らかく芯から温まる」と絶賛。開業前、試しに入浴し今回2度目の来訪という。

 温川は黒石温泉郷最奥部にある。豊富な湯量やブナ、カエデといった広葉樹、目の前を流れる川のせせらぎを楽しめるなど、大自然に囲まれた隠れ湯的な雰囲気が魅力。国民的作家だった吉川英治が代表作「宮本武蔵」の執筆前に構想を練った地とも言われる。泊まった宿は別だったが山荘敷地内には吉川による「ぬる川や湯やら霧やら月見草」の句碑も残る。

 山荘は平川市の医院がかつて所有。14年に老朽化や利用客の減少などを理由に閉鎖された。大阪府出身で鳥取市にある旅行会社を経営する福地さんは青森県と縁もゆかりもなかった。東日本大震災以後「東北のために何かできたら」と考え、できるなら移住して旅館経営を-と思い描いた。

 インターネットで物件を探していたところ山荘に行き当たったという福地さん。「どこも観光地化されすぎていた」と言う東北各地の他の温泉と違い、落ち着いた雰囲気で泉質が良く緑も豊かな温川が気に入り15年冬に施設を購入した。

 翌16年春から改修に着手した。築数十年の建物は人の出入りがなくなり、冬場の寒さによる凍結もあって傷みが一気に進んでいた。

 福地さんは妻子を鳥取市に残して、泊まり込み。周囲の人家は限られ夜間、通る車もごくわずかだ。「最初は夜が薄気味悪かった。カモシカの鳴き声もよく聞いた」と笑う。

 人手不足で業者を思うように確保できず冬は工事が中断。自ら改修に加わりながら、1年半かかってようやく入浴が可能となるまでにこぎ着けた。今秋、中南地域県民局から旅館営業、温泉利用の許可を受けた。

 その間、福地さんが出会った青森の人は皆、親切だったという。訪ねて来る友人を十和田湖、斜陽館、田んぼアートなどに案内しながら「これだけいろいろ巡ることができる所は他にない。何もない-と青森の人は言うけど、ここは天国」とも実感した。

 お気に入りはヒバの板を張った扇形の風呂。「新しい建材を使って直せば簡単で楽だけど古い方が落ち着く。今ある建物を大事に使いたい」と福地さんは語る。いずれ妻子を呼び寄せるつもりだ。

 温川山荘の再開に平川市観光協会の山田忠利会長は「リピーターが増え、活性化をつくるきっかけとなれば」と期待をかける。

 福地さんは食事も提供できる旅館を目指し調理担当者を探している。入浴は500円。今年の営業は11月中旬まで。問い合わせは福地さん(電話090-2450-3852)。

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