現在インドで行われているU-17ワールドカップを戦っている日本代表は、ここまで1勝1敗という成績だ。
初陣となったホンジュラス戦では大量得点で勝利を収めるも、第2節のフランス戦では全ての攻撃を失速させられ、カウンターを受けて撃沈した。
その原因は、試合を見ていれば一目瞭然だ。1対1や対面、競り合いの状況で全く勝てず、技術で仕掛けられなくなり、展開がみるみる消極的になっていった。
いろいろ対処法はあるとは思うものの、ここまで選手同士の対戦で負けているとどうにも動きにくくなる。
2得点を決めたフランスの「9番」アミヌ・グイリが一発で抜けてしまうことを考えれば、センターバックが持ち上がって1対1にしておくのもリスクが高く、攻撃的な選択肢も限られていく。
ハリルホジッチ監督が言う「デュエル」の重要性を痛感できる試合だったといえるだろう。
あの「講義」の意図とは?
今回のキリンチャレンジカップのメンバー発表において、ハリルホジッチ監督は「講義」とも言えるプレゼンテーションを行った。
そこで具体例として用いたのは、直前に行われたチャンピオンズリーグのパリ・サンジェルマン対バイエルン・ミュンヘンのデータだった。
パリ・サンジェルマンは30%台というボール保持率であったが、バイエルンを相手に3得点を奪って快勝したという試合である。
その中で唯一パリ・サンジェルマンが大きく上回っていたのがデュエル。つまり「対人戦の勝率」であった。
これが「ポゼッションは勝てない、早い攻めとデュエルが重要」というポゼッション信仰への“カウンター”だという意見は多かったように思う。
しかし、筆者は『デュエルの強さがないポゼッションは脆弱』という意味なのではないかという解釈をしていた。注目すべきはパリ・サンジェルマンではなく、バイエルンの方のデータだったのではないかと。
多くのジャーナリストが分析した2014年W杯のアルジェリアも、韓国戦などではちゃんとパスを回して攻めた時間があった。コートジボワールでも特筆するほどカウンター志向ではなかった。ハリルが「強硬な反ポゼッション派」ではないことは明白である。
あの講義は、要するに『バイエルンでもデュエルで上回らないと勝てないのに、日本の実力じゃポゼッションは絶対ムリ』というのをかなり厚めのオブラートに包んで伝えたのではないだろうか。
日本人には技術がある?
思えば、「日本人はテクニックがある」という言説はよく存在していた。
ジーコジャパンあたりからだろうか?「自分たちのサッカー」が、パスを回してボールを保持することになり始めたのは。
日本人は小柄でフィジカルがなく、その分俊敏性と技術、スタミナがある。だからこそボールを繋ぐべきなのだと。蹴ってしまうことはあまり良くない。足元でパスを繋いでプレーしよう。運動量を活かそう。味方を使おう。
それ自体が間違っているとは言えない。当然、それだけのテクニックがあれば可能だからだ。
ただ、ハリルホジッチが以前から言っている「デュエル」の課題は、「デュエルの技術がない」ということ。フィジカルだけではなく、テクニックの問題でもある。
そういえば、ハリルホジッチは就任会見で『テクニックがある選手がいる。多くのことはできないが、あることは出来る。皆ボールを欲しがる』とは言っていたが、ここでも全面的に褒めてはいない。限定的な使い方ができると言っているだけだ。
そもそもハリルホジッチ自身は日本人のテクニックをあまり評価していないのだろう。そして、それがU-17ワールドカップのフランス戦で現実として表れたと感じたわけだ。ボールタッチだけがうまくても、それを止める方法はいくつもある。
ボールを相手の前で保持すれば、それだけ対面する選手とのデュエルが増える。それが苦手ならば、同時に「奪われる」機会も増加していく。
デュエルが弱いのなら…
当面の解決策は2つしかない。時間をかけてデュエルを強化するか、危険な位置でのデュエルを出来るだけ減らすかだ。前者は長期的、後者は短期的なものになる。
その課題をしっかり認識し、両面で改善に取り組もうとしているのが今のハリルホジッチではないか。前者は言葉で、後者は戦術で。
ハリルホジッチは、少なくとも現状認識は出来ているように思う。そして弱者としてどう戦うかを考えていることが、U-17代表による「世界トップに通用しない」プレーで証明されたという気がした。『デュエルの強さがないポゼッションは脆弱』と。
これで、筆者は短期的にも長期的にもハリルホジッチを維持していくことが日本のためになると確信できた。少なくとも彼は「客観的視点」を持って仕事に臨んでおり、日本の課題に向き合える人物だ。
もちろん、当面の勝敗については水物であるし、JFAが作ってきた育成方針に「それじゃダメだわ」と言っているわけだから、そりゃお偉方から嫌われてもしょうがないが…。
ともかく、それを分からせてくれた相手がフランス…ハリルホジッチが選手としても監督としても学んだ場所だったということは、なんとなく運命を感じるところだ。
筆者名:籠信明
福井県と京都府を本拠地として活動。フランス、ポルトガル、アジア、アフリカなどのサッカーが得意分野で、海外ではPSGとヴィトーリア・ギマランエスのファン。「なぜか喋れるライター」として最近バニーズ京都SCのスタジアムDJ、日本代表パブリックビューイングのゲストコメンテーターなども務めている。『ハリルホジッチ思考―成功をもたらす指揮官の流儀』共著。
Twitter: @cage_nob