【問う】暮らしの現場から<精神障害者> 理解不足、見えぬ光

 「ここを退院しても、戻る場所がないから」 横浜市内の精神科病院。数十年入院している50代の男性患者は、支援のため訪れた澤田高綱さん(44)=同市瀬谷区=にこう漏らした。

 澤田さん自身、症状が落ち着いてはいるものの精神障害者だ。地域で暮らすピア(当事者)スタッフとして10年ほど前から、病院を訪問して患者の退院後の地域生活などを一緒に考える活動を続けている。

 男性患者は清潔感ある普段着を身にまとい、ひげをきれいに手入れしている。目立った症状がなく、医師からは「退院しても大丈夫」と言われているという。それでも長期の入院生活を続けているのは、退院後の行き場がないことが理由だった。

 両親は既に死去して実家はない。若い頃から何十年も入院しているから電車の乗り方一つ分からない。

 「結婚、したいなあ」。男性が諦めたように放ったその言葉が、澤田さんの胸に残っている。暮らしに障壁 厚生労働省によると、全国の精神科病院に入院しているのは約28万5千人(2015年度)。そのうち1年以上入院しているのが18万1千人(約63・5%)、10年以上も5万9千人と20%を超える。その多くが、男性患者のように症状が治まっても地域に出られず病院で生活している「社会的入院」とみられている。

 精神障害者が地域で暮らすハードルは高い。1人暮らしができない場合に入居するグループホーム(GH)などの施設が足りなかったり、物件の貸主の理解不足から入居を拒まれるケースがあったり、まずは行き場の確保が難しい。

 地域に住まいを見つけても、経済的な厳しさが待ち受ける。精神科病院への入院経験がなく地域で支援側に回っている澤田さんも、例外ではない。ピアスタッフ活動のほか、患者対象の電話相談員や瀬谷区障害者自立支援協議会の会長として奔走しているが、月の収入は障害年金を合わせて10万円ほど。同居する70代の母親も働いて、何とか暮らしが成り立っている。「生活保護ぎりぎり。障害者が活躍できる社会ではない」問われぬ課題 障害者向けの施策が選挙戦の争点として挙がることはほぼない。12年と14年の衆院選でも具体的な公約を前面に押し出す政党はなかった。

 決して課題がないわけではない。昨年7月に相模原市緑区の障害者施設で殺傷事件が発生した際は、被告に精神科病院入院歴があったことを受ける形で、精神障害者への監視を強める精神保健福祉法改正案が提出・審議された。衆院解散に伴い廃案になったが、障害者団体や有識者らが反対する事態となっており、今後の扱いに注目が集まる。

 ことし5月には、大和市内の精神科病院で長時間身体拘束を受けた男性患者が死亡したとされる問題が発生。同法で定められている身体拘束のあり方を疑問視する動きもある。

 「(国は)危機意識や疑問を抱きすらせず、医療現場に患者の生き方までゆだねているように感じる」。澤田さんは「どの課題にも共通するのは『精神障害者だから』という偏見や無理解。国全体で意識から変えなければ改善できない」と指摘し、こう訴えた。「安心して地域で暮らせるよう、現状を把握した上できちんと考えてほしい」

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