スペイン名門の育成コーチに聞いた、サッカーを教える上で大切にしていること。

前回、スペインに学ぶサッカーの本質 ~カタルーニャの町クラブが魅せた衝撃~という大会の取材レポートを書かせていただきました。

レポート第2弾は、U-14女子 RCDエスパニョールの監督インタビューの模様をお伝えしたいと思います。

U-14女子の部では、スペイン1部の名門であるバレンシアCFとRCDエスパニョールの試合がとてもテクニカルで面白かったのですが、とりわけRCDエスパニョールのサッカーは目を見張るほど素晴らしいものでした。

チームとしてコレクティブに戦えること、常にボールを最適な場所へ動かす技術は参加チームの中でも飛び抜けていました。

選手同士が試合中に常にコミュニケーションを取り合いながら、全員でオーガナイズしていくのですが、そこで感じたのはサッカーインテリジェンスの高さとコミュニケーション能力の高さでした。

一体どんなトレーニングをしているのだろうか、どんなことを選手に伝えているのだろうか…

試合後、RCDエスパニョールのハイメ監督にインタビューすることができましたので、ご紹介します。

PhotoGrafh by Kenji Onose(HP: https://kenjionose.photos/
通訳:前島 隆浩(https://www.facebook.com/takahiro.maeshima

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育成年代で大事にしていること

― 練習において大切にしていることは何ですか?

ボールタッチです。走ることは少なく、少ないタッチ数(ワンタッチもしくは2タッチ)でボールを回すことを優先しています。

― もちろん明確な意思決定(戦術性)のあるボールタッチを求めていますよね?

もちろんです。(チームコンセプトに沿って)速い意思決定、速いパス回し、とりわけドリブルを少なくして、コントロールとパスを重視しています。

― あなたの考える技術(técnica)の中には個人戦術の要素は含まれますか?

当然です。さらには力強さ(force)も求めます。体のぶつかり合いや、ボールの取り合いの局面での強さです。 全てはコントロールとパスをしっかりとできるようにするためです。 

※おそらく練習における強度を高めて戦術的な部分の向上だけでなく、プレッシャーの高い局面においても落ち着いてボールをコントロールしてパス(チームコンセプトに合った意思決定)が行えるようにするために、そういった力強さが必要であると言っているのだと思います。

― どのようなスタイルの練習形式を行うことが多いですか?

85-90%が Juego de posición(ボールポゼッション)です。簡単な技術練習(analítico)はほとんどしません。 

※試合をイメージした練習が大半であるということ。

― 練習日は?

火曜と金曜です。1時間半~2時間ずつ。

― 火曜と金曜のそれぞれの練習の形式は?

火曜の練習は、グループでの練習です。守備→攻撃をスムーズに行うためのグループでの連携を確認します。 金曜は試合形式で行います。

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ボールポゼッションを大切にする理由

― 選手個人(ポジション毎)に焦点を当てた練習を行うことはないですか?

小さなグループ(多くて4-5人)を作って練習を行うことはありますが、全てのグループが同じ練習をします。 フィジカルトレーニングもほとんどせず、とにかく Juego de posición(ボールポゼッション)をコンセプトに練習に取り組んでいます。

― その考えは全てのカテゴリーで共有されているものですか?

ユース以上のチームはフィジカルの維持やその重要度が高いため少し違いますが、それより下の、特に7人制サッカーの年代の子どもたちにはフィジカルの要素はそれほど必要ないし、ボールをキープすることで余計に走らなくて済むから、それに焦点を置いた練習をしています。

― 技術(técnica)に焦点を置いた練習はどの年代まで重要視されるべきであると考えますか?

だいたいInfantil(13歳)くらいまでではないでしょうか。それ以上の年代では、技術よりもフィジカルの要素が不可欠になってくるのと、Juego colectivo(チーム戦術)が重要度を占めるためです。

― ある特定のシチュエーションをピックアップしてそれを解決するための練習をすることはありますか?

はい。スペースを区切った中での少人数の状況や、ゴールに近い局面での3vs2(数的優位)、自陣ゴール前からシュートレンジまでボールを運ぶ練習をします。ただし、人数を制限しながらです。

― そういった練習をBenjamín(8歳以下) でも行いますか?

おそらくするでしょう。

― あなたがもしBenjamínの監督だったら?

間違いなくします。 なぜなら上のカテゴリーに上がった時に同様の基本コンセプトがあった方がプレーしやすいからです。

― 日本サッカーについてどう思いますか?

日本の女子サッカーしか見たことはないですが、とても高い技術を持っていて、レベルが高いと思います。 女子サッカーは(以前は)⼀般的にボールを前に蹴ってプレーするスタイルが多かったですが、そういったスタイルのサッカーはもう終わるでしょうし、これからはボールを持ってプレーするサッカーへと変わっていくでしょう。だから、私たちはそのスタイルのサッカーを目指して練習しています。

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育成年代での指導はとても大切

この大会で多くのチームを観ることができましたが、一番印象に残ったのは指導者の質の高さです。どの指導者もとても熱く、試合中は相手のコーチや審判などへ感情的に振る舞う人も何人かいるほどでしたが、選手たちへは感情を抑え、適切な熱量でコーチングを心がけているのがわかりました。

これはどのチームの指導者にも共通することです。この年代の選手たちへ使う言葉、表現を大切にしている印象を受けました。

サッカーを深く、細かく分析し、それを落とし込んでいる

レポート第1弾では、地元カタルーニャのクラブの選手たちが驚くほど個人戦術に優れているということを書きました。

そしてRCDエスパニョールのプレーもとてもクオリティが高かった。

ボールを扱う技術よりも判断の質、駆け引きの質、ポジショニングの質、コミュニケーションの質がとても優れていると感じました。

これはスペインがサッカーの本質を深く考え、分析し、選手たちに落とし込んだ結果なのだと思います。

日本の育成年代の選手たちはこのような奥行きのあるサッカーはまだできないと思いました。

今後、日本が世界で戦っていく上で大切なことの一つとして育成年代のレベル向上が不可欠ですが、まずサッカーの本質を大人がもっと考え、適切に現場に落とし込んでいくことが重要なのだと思いました。

そしてスペインにはできない、日本ならではのサッカーを追求していくことが求められると思います。

サッカー先進国を模倣するだけでなく、日本が進むべき道をしっかりと見定めて、日本独特のスタイルを確立していくことで世界は近づくのではないかと思うのです。

サッカーの本質を追求する旅はつづく…

筆者名:KEI IMAI

桐蔭横浜大学サッカー部時代に風間八宏氏(現・名古屋グランパス)にサッカーの本質を学ぶ。同時期にスエルテジュニオルスで育成年代のサッカーの指導に携わる。その後半年間、中南米をサッカーしながら旅をし帰国。現在都内で働きながらブログ「大人になってから学ぶサッカーの本質とは」を運営し、育成年代の現場の取材、指導者や現役選手にインタビューをしサッカーの本質を伝える活動をしております。

サイト: http://keikun028.hatenadiary.jp/

Twitter: @Keivivito

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