【新日鉄住金エンジニアリング フィリピンの建築・鋼構造事業(上)】〈PNS-ASTech社・白井社長に聞く〉鉄骨造への転換推進 現地パートナーとの関係を深化

 【フィリピン・マニラ発】新日鉄住金エンジニアリングの建築・鋼構造事業部(事業部長・村上信行執行役員)はフィリピンで2013年に建築・鋼構造合弁、PNSアドバンスド・スチール・テクノロジー(PNS―ASTech)を設立。日本で培った技術力を軸として、同国の建築・土木向けに鋼構造物を展開しフィリピンの成長に寄与してきた。白井貴志社長にフィリピンにおける事業の現状と展望を聞くとともに、現場の状況を取材した。(村上 倫)

――まずは事業環境からお聞きしたい。

 「フィリピンのGDP名目成長率は16年第2四半期までで7%で、17年第3四半期まで6%台の維持が見込まれている。名目GDPの建設関連総額は15年計で1・5兆ペソ(約3・2兆円)と前年を約10%上回っている。フィリピンの建設市場の規模は日本の約10分の1だが安定的に成長しており、今後のさらなる成長が期待できる」

PNS-ASTech社・白井社長

 「公共事業予算も前年比19%増となった15年に比べ16年は同91%増の4440億ペソ(約9700億円)とさらに大幅な増額となるなど公共建設需要は旺盛。特に公共事業道路省予算が倍増となっており、道路関連予算がその大半を占めている。高架道路向けに当社の回転圧入鋼管杭『NSエコパイル』や道路側壁向けに共同出資会社である日鉄住金建材の斜面安定化工法、ノンフレーム工法の需要が期待できる。建築確認申請ベースの投資金額も15年は3310億ペソ(約7200億円)で住宅が1600億ペソ(約3500億円)、非住宅が1430億ペソ(約3100億円)などとなっている。16、17年度もこの増加傾向は変わらないとみている」

――建設需要が高まる中でどのような戦略を。

 「15年の鋼材需要は1050万トンと前年比16%増加しており建設業向けが8割を超えているが、依然鉄筋コンクリート(RC)造が主体だ。建設市場では商業・経済の中心地であるマカティを中心に高層コンドミニアムの建設が旺盛で住宅建設投資の4割を占める。RC造が主体だが、当社の制振デバイスの適用が進んでおり、今後も着実に適用を拡大していきたい。また、非住宅市場では商業施設の投資が大半を占めている。大型施設の鉄化を図るとともにキャノピー(天蓋)などの付帯鉄骨、さらに昨年から顕在化してきた商業施設向けの耐震補強の『NSエコパイル』需要を捕捉したい」

 「これまで免震製品3件、制振部材4件を受注したほか『NSエコパイル』も採用されている。システム建築でも学校を2棟寄付したほかデイケアセンターを1件受注した。米・トロント大学と開発を進めている粘弾性体に3Mのアクリル系粘弾性体を用いた粘弾性ダンパー(VCD)を超高層のツインビルに年内にも納入する予定で、日鉄住金建材の『ノンフレーム工法』も初受注に至るなど設立から4年で着実に成果は出てきている。今後はRC造が主流の中で超高層案件や大型案件でどれだけ鉄骨造化を進めていくかが課題となる。鉄骨単価が高いことに加え、鉄骨が早く組み上がっても他の工程が追いつかず工期面の優位性が発揮しにくいことが背景だ。デベロッパーに鉄骨造の提案をしていくためには施主やゼネコンを巻き込むことが重要だが、構造設計者はもちろん、施主とゼネコン双方にメリットがなければ難しい」

 「2020年を見据えて重点顧客やビジネスパートナーとの関係を深耕するとともに市場の発現・潜在的ニーズの高まりを確実に捕捉したい。大手財閥や鉄骨ファブリケーター機能を有する大手ゼネコン、最大手構造コンサルのSY^2(シースクエア)との関係を深化させ、受注拡大および継続受注の仕掛けづくりを目指していく。具体的には特殊鉄骨分野では案件形成に注力し、着実な刈り取りを行っていく。ローカルファブなどとの協業拡大を継続的に図っていきたい。また、エコパイルについてはビジネスパートナーであるローカルの杭打ち業者の営業網を活用していく。コストダウンに向けて羽根部の現地生産化なども検討する。制振ブレース『アンボンドブレース』についても現地生産化を進めており、空港案件では一部をフィリピンで生産した。超高層案件向けの部材はサイズが大きくすぐに現地化することは難しいが、手を挙げるファブは多く下ごしらえをしていきたい」

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