【新日鉄住金エンジニアリング フィリピンの建築・鋼構造事業(中)】

 【フィリピン・マニラ発】新日鉄住金エンジニアリングのフィリピンの建築・鋼構造合弁、PNS-アドバンスド・スチール・テクノロジー(PNS-ASTech)が設立されたのは特殊鉄骨と免制震部材の市場開拓が狙いだった。設立した2013年当時、日本の特殊鉄骨需要は縮小傾向にあり「長期的な視野で東南アジアに活路を求めた。フィリピンはRCが主流だが鉄化の可能性は高い。1997年に旧新日本製鉄の建築・鋼構造営業拠点として設立されたPNSコンストラクションなどのネットワークが存在したことに加え、台風や地震などの自然災害の影響も大きく需要拡大が見込まれた」(白井貴志PNS-ASTech社長)。

高層コンドミニアム建設/制振用ダンパー採用

 フィリピンにおける鉄需拡大を図るPNS-ASTechが現在、同国で関わる案件の一つに60階建ての高層コンドミニアムの建設プロジェクト「Imperiumプロジェクト」(マニラ・パシグ市)がある。同社は制振用ダンパー「アンボンドブレース」64本を受注しており、今年1月には納入が完了した。米国に本拠のある競合他社に比べ営業面・設計面でのフットワークのよさを買われ、現地の大手ゼネコン、DMCIからNAIAレトロフィットプロジェクトに続き受注に至った。また、競合他社のブレースはDMCIが使用するタワークレーンでは吊り上げることができず、他社に比べ大幅に軽量な「アンボンドブレース」を複数束ねる設置形式に設計変更することで吊り上げが可能となったことも決め手となった。

 構造は1フロア4室のRC造で一部に鉄骨(ブレース)が使用される。「アンボンドブレース」は日本で鋼材調達とファブリケーターによる加工が行われ、フィリピンへ海上輸送された。施工を担当するゼネコン、DMCIは安全への意識が高く取材時には安全講習を事前に受けるほどの徹底ぶりが印象的で仕事も丁寧だった。「アンボンドブレース」の両端はピンで接合されピンの誤差をプラスマイナス1ミリに抑える必要がありその精度を出すことに苦労したというが、2本のブレースが平行して正確に設置されていた。ブレースの据え付けは8月中旬までに第1次・16本が完了し、9月下旬に第2次・16本が行われ、来年7~8月に第3~4次・32本が行われる予定。免制震デバイスは米国や中国などでも販売する世界的な商品で、中でも「アンボンドブレース」は06年の旧新日鉄エンジ発足以降、日本国内で6万本を超える採用実績を有している。

国立博物館の特殊鉄骨/複雑な形状忠実に構築

 特殊鉄骨も現地の象徴的な建設物に適用されている。マニラのフィリピン国立博物館中庭のドーム状屋根を支持する特殊鉄骨建築物「Tree of Life」(TOL)の建設にも構造設計支援や鉄骨および基礎杭の供給で寄与している。特殊鉄骨建築物の鋼材重量は約600トンで、同社の空間構造商品である「NSトラス」も含まれている。文字通り空に広がる木のような美しい形状は来訪者の眼を魅きつける。屋根の直径は40メートル。その複雑な形状から上部鉄骨に関し競合した構造設計事務所が意匠設計者のデザインを尊重せず独自案を提案したのに対して、PNSはデザインイメージに忠実な構造計画を提案、受注につながった。3DCADのデータをPNSで2次元の図面に落とし込み、屋根部の鉄骨に用いたパイプの切断は工場で行なった。難しい形状だったが、予定の工期通り加工も完了。こうした品質管理能力や工程管理能力が特殊鉄骨案件「マニラ・ベイ・リゾートプロジェクト」の受注にもつながっている。

 また、鉄骨基礎に関しては歴史的建造物である博物館の中庭であるため周囲が建物に囲まれ、通常の杭打ち機では建設地に入ることができなかった。そこで同社は小型杭打ち機で施工可能な回転圧入鋼管杭「NSエコパイル」を用いた「エコパイル工法」を提案。既設建物を通り抜けて建設現場へ到達できるメリットが評価され、採用に至った。使用された「エコパイル」の長さは20メートルで数量は132本。付随する階段の基礎にも28本が使用されている。鋼管はフィリピンのスパイラル鋼管メーカーで生産された。同社は日本国内で06年以降、200件を超える特殊鉄構を手がけており、国内で蓄積された知見が海外のプロジェクトにも生かされている。(村上 倫)

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