【営業トップに聞く】〈大同特殊鋼・立花一人副社長〉特殊鋼値上げ、早期に決着 EV化による特殊鋼需要減「2020年代後半にも加速」

――足元の特殊鋼需給から聞きたい。

 「当社の7~9月期の受注数量は前年同期比2ケタ増の水準に達している。自動車向けは昨年秋口から増勢をたどってきたが引き続き堅調。軸受け、産業機械、建設機械向けも受注が増えている。ステンレスでは半導体製造装置向けの高機能材が好調だ。当初『秋には特殊鋼需要は一服』とみていたが落ちる気配はない。経済産業省の10~12月期の特殊鋼需要見通しでは前期(7~9月期)比2・5%増となっているが、当社でも同様のレベル感を持っている。来年1~3月期も高水準の需要を維持するとみている」

――中長期にはEV化の問題がある。特殊鋼需要への影響をどうみているのか?

大同特殊鋼・立花副社長

 「欧州や中国ではガソリン車・ディーゼル車からEV車へのシフトを加速させる方針を打ち出している。EVになるとエンジンやトランスミッション用を主体に鋼材使用量が大幅に減るため、ガソリン車と比べ特殊鋼使用原単位は30~40%減ると想定している。自動車全体のグローバル生産は増えるが、小型化、素材・部品の現地調達化に加え、EV化の進展で2025~30年には特殊鋼需要は減少局面に入る可能性がある。強い懸念を持っている」

――大同特殊鋼・営業部門の課題を聞きたい。足元の旺盛な需要にどう対応していくのか?

 「上期は、設備の稼働時間延長や外部倉庫活用によるフレキシブルな在庫運営等、できる限りの施策を打ってきた。そのためのコストはかかったが全体としては需要に応えることができた。ただ、ミクロ的にはステンレスの二次加工や軸受鋼線材の熱処理などのボトルネックが顕在化し、納期を調整しながらの苦しい運営となった」

 「下期は、圧延ミル配分の見直しによる生産性向上等の増産対策を打っていく。ボトルネックを抱えた製品についても対策を講じる。すでに余力は少なく、特殊鋼需要見通しに示されたような数%の増産をするだけでも容易ではない状況だが顧客との会話も密にしながら乗り切っていく」

――そういう状況下で主原料の鉄スクラップは高値圏にあるし、電極、耐火レンガなど副資材の価格も上昇している。価格対応はどうするのか?

 「鉄スクラップやニッケルなどのサーチャージ制を採っていないお客様に対しては、コスト状況を説明し、販売価格の改善を図ってきた。これについては完全実施に向け、ヒモ付きも含めた早期決着を目指している。加えて足元の増産のためのコスト負担もあるし、電極などの副資材も高騰しており、ロールマージンは大きく悪化している。低採算品の改善、生産性アップにつながる仕様の見直しに加え、ベース部分についても顧客の理解を得ながらマージン改善を図っていく」

――特殊鋼鋼材の中ではどのような製品に重点を置くのか?

 「EV化が加速されるといっても時間がかかる。自動車メーカーはEV化と同時に内燃機関の熱効率向上も追求している。後者のニーズに対しては高強度・高耐熱・高耐食の製品開発にさらに磨きをかける。自動車向けでは歯車用鋼に強みを持っているので、ここにも引き続き重点を置く。軸受鋼線材はグローバル展開による拡販効果は出ているが、韓国ミル等との競争が激しくなってきた。現地での在庫運営体制を強化することでデリバリー競争力を高めていきたい」

 「ステンレスは全分野の需要を捕捉していく。なかでも自動車向けは、部品メーカーとの関係を強化していきたい。海外のティア1メーカーとの取引を通じて欧米特殊鋼メーカーのノウハウを勉強させてもらい、新規需要開拓につなげたい。半導体製造装置向け材料については、能力増強を早期に図り需要拡大にしっかりついていきたい。工具鋼では知多工場に新設した特殊溶解設備を最大活用したプロセス改善も含め、供給と品質の安定化等に向けた取り組みを行っていく」

――東アジアでのサプライチェーン構築は進んでいるのか?

 「昨年4月に立ち上げたタイの型鍛造工場を軌道に乗せることが課題だ。タイ精線(日本精線の子会社)、下村特殊精工、フジオーゼックスなど有力なグループ会社がアジアに出ている。一部の製品では連携効果が出ているが最大化に向け取り組む。工具鋼では東南アジアに多くの拠点を持っているが、新たにインド、メキシコにも進出したので新拠点での拡販を進める」(一柳 久男)

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