胴上げやヒーローインタビューなし? 球場内外で見られる日米の文化の違い

WS進出を決め盛り上がるドジャースの選手たち【写真:Getty Images】

NPBとMLBに見る文化の違い

 優勝が決まった直後にマウンド上で行われる胴上げ。そして引退した選手にチームメートが敬意を示して行う胴上げ。日本では野球だけに限らず、様々なスポーツシーンで見ることができる。だが実はこの胴上げという行為は日本特有のものであり、米国では意外にも握手やハグなどで済まされることが多いということをご存じだろうか。表現の大きさという意味では米国の方が喜びを爆発させる“胴上げ”を行いそうなイメージだが、実際にはそうではないのだ。

 この胴上げのように、実は日本のプロ野球でしか行われないようなことはいくつか存在する。最近ではメジャーリーグ特有の文化が海を越えて多く伝わってきているが、日本にも独特のものが存在する。

 試合途中の投手交代の際、リリーフ投手が車の助手席に座り、登場してくる場面を見たことがあるだろう。実はこれは日本特有であり、米国ではブルペンから走ってグラウンドに登場し、マウンドに上がる。日本ではスポンサー社にとって格好の露出の場となるが、米国でもこの間にビジョンを使った仕掛けや自然な盛り上がりが作り出されるなど、それぞれに利点はある。

 そして試合直後にグラウンド上で行われるヒーローインタビューも日本特有のうちの一つだ。日本では球場全体に響きわたるように活躍選手の声が届けられるが、こういったファンサービスはメジャーリーグにはない。試合後に地元テレビ局がグラウンド上で選手に話す場面はあるが、これはスタジアム全体に聞こえるものではない。

 しかし、私が通訳をしていた時にそれと似たような場面に出くわしたことがある。地元テレビ局のインタビューに選手が答えていたのだが、観客を見ると、選手が答える言葉の一つ一つに反応をしていたのだ。それはなぜかというと、地元テレビ局の生の映像がビッグスクリーンに映し出され、結果的にヒーローインタビュー形式になっていたからである。だがこのような場面もメジャーリーグでは、稀なことだっただろう。

グラウンドを引き上げていく選手たちを待ち受けるシーンにも違いが…

 そして、グラウンドを引き上げていく選手たちを待ち受けるシーンも日本独特ではないだろうか。米国ではリーグ規定で試合終了の何分後かにクラブハウスがメディアに開放されるが、日本では“ぶら下がり”という文化がある。一度ロッカーに戻って荷物をまとめ、球場を後にする選手たちを広報やメディアがマネジメントして取材を敢行していく。しかもユニホーム姿でバスに乗り込むシーンは米国ではキャンプ中にしか見ることのない光景だ。米国ではホームであってもアウェーであっても球場でシャワーを浴び、着替えてその場をあとにするのが一般的なのだ。

 日本ではユニホームなどの着替えを宿泊先の部屋の外に置き、提携している業者が洗濯を行う。一方、米国では着替えを球場で済ませてしまうため、全てをクラブハウスのスタッフ、俗にいう“クラビー”が作業を行ってくれる。このため、米国では現場に属するスタッフがそれだけ多く必要となるが、日本ではうまく第三機関を巻き込んで運営を行っている。

 さらに米国では、試合後の食事は遠征チームであってもクラブハウスで他球団のアウェーチームをもてなすスタッフたちが用意してくれる。これには選手会とMLBの規定により、毎日遠征時に支払われるミールマネー(食費)が関係しており、その中から遠征時に洗濯や食事を提供してくれたスタッフにチップを支払うという義務がある。リーグがうまくお金の循環を果たしている。そのため個々の判断にはよるが、試合後は球場で食事をして帰る選手が非常に多い。一方、日本では宿泊先のホテル会場に食事が設けられていて、栄養管理がされた食事を口にできる。もちろん、外出先で食べる選手もいるだろう。 

 日米では様々な面においていくつかの違いが存在する。意外にもヒーローインタビューやリリーフカーの存在など、エンターテインメントに長けた部分が米国には無く、日本にはあったりもする。ここで挙げたものはごく一部の紹介に過ぎないが、様々な角度から日米を見比べてみると、意外なところで新たな発見に出会えるかもしれない。

(広尾晃 / Koh Hiroo)

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