最速155キロも目指すは「軟投派」 ドラフト上位候補右腕が掲げる理想とは

仙台大学・馬場皐輔【写真:高橋昌江】

8球団スカウトを前に圧巻完封劇、ドラフト上位候補に挙がる仙台大・馬場

 第48回明治神宮野球大会の出場をかけた第9回東北地区大学野球代表決定戦が21日、岩手県・花巻市営球場で始まった。東北地方の大学3連盟から代表4校が出場。第1試合では仙台六大学野球連盟代表の仙台大と南東北大学野球連盟代表の東日本国際大が対戦。仙台大は今秋ドラフト上位候補の馬場皐輔が8球団のスカウトの前で4安打完封。9回には自ら、小学生以来となる本塁打を放ち、3-0で決勝進出を決めた。

 誰もが笑顔だった。というよりは、爆笑といった方がいいだろうか。9回、1死。馬場はやや泳ぎ気味でスイングしたが、打球はどんどん伸びてレフトスタンドにイン。スタンドもベンチも沸き立った。打った直後は笑顔だった馬場も「たまたま、まぐれなので」と試合後は苦笑い。本塁打よりも5回の無死一塁で犠打を決めたことの方を「チームのためにできた」と喜んだ。

 もちろん、投でも貢献した。

「ロースコア勝負を予想していた。監督さんやコーチからもピッチャーが粘れば打線に繋がってくると言われたので、今日はゼロにこだわった。先頭打者を出さないようにとか、なるべく相手に流れを渡さないようなピッチングを心がけ、粘り強くというのをテーマにやりました」

 9回を投げ、先頭打者は一度も出さず、与えた四球は1つ。ヒットもわずか4本に抑え、10奪三振完封。元ロッテ投手の坪井俊樹コーチから「打たせて、テンポよくできたんじゃないか」と言われたと話し、「今日は良かったかなと思います」と笑った。

 この秋、馬場のピッチングが変わった。以前までは自分の世界に入り込むタイプで、困ったら力勝負。それで辛酸をなめてきた。「2ストライクに追い込んでからストレートが高めに浮いたり、イニングの先頭打者になんとなく入ってノースリーにしたり」と本人が話すように、もどかしいピッチングが目に付いた。それがこの秋は状況に応じた投球ができるようになり、なおかつ、丁寧に投げられるようになった。

目指すは“カメレオン”のような投球―

「冬はストレートに磨きをかけ、春のリーグ戦に臨んだ。球速も上がり、質もよくなったけど、インコースを突いたり、繊細なコントロールをつけたり、押し引き、力の強弱の段階までは完成できませんでした。力で押す方向が強くて、テンポよくというゲーム運びができなかった。150キロは超えていたけど、後半にバテました」

 春に出た課題を夏場に修正した。150キロ台の直球をどうやったら生かせるか。また、多彩な変化球もどうやって生かすか。真正面から向き合えたのは、未来も考えてのことだ。

「僕が上で野球をやっていくということを考えたら、いろんな状況に対応できないと勝てる投手にはなれないかなと思った」

 試合は常に生きている。動いている。対戦するチームも変わるし、対策も取られる。そうした中で勝つことを求められる。

「満塁だろうが、一塁に足の速いランナーがいようが、いろんな状況が考えられる中で、ピッチングに変化を付ける。いろんな配球ができたり、フォームも早くしたり、遅くしたり。カメレオンではないですけど、そういうピッチャーがいいかなって思って」

 カメレオン――。仙台大と同法人の明成高男子バスケットボール部が駆け出した頃、佐藤久夫ヘッドコーチは変幻自在の「カメレオン・バスケット」を掲げていた。その後、明成高男子バスケ部はウインターカップ3連覇やインターハイ優勝など強豪に成長。変化に強く、状況に応じられる者は強い。

スピードガンとの勝負は“卒業”、「9回を27球で終わらせるのがテーマ」

 高校生の頃も、大学の下級生の頃も、馬場の話を聞いていると、どこかスピードガンと勝負している節があった。そこを“卒業”し、この1年はスピードにこだわりを持った中で次のステップに向けて大きく羽ばたこうとしていた。そんな中、今年は打者との対戦に入り込みすぎないよう、もう1人の自分をスタンドに置いたという。冷静にマウンドの馬場皐輔を見つめる、もう1人の馬場皐輔は「マウンドに上がっていると、熱くなって押したくなる」欲望の抑止力となった。それが無駄なボール球を減らし、丁寧な投球ができるようになった要因だ。

 この日も、「スライダーでカウントを取れなかった」と見るや否や、直球とスプリット主体のピッチングに変えた。東日本国際大がスプリットに合っていなかったこともあり、「変にスライダーにこだわる必要はない。スプリットとストレートでうまくコースを突いて投げ分けられた」と納得の表情。その日の状態や相手との相性に応じて変幻自在の投球ができたことはこの秋を象徴していた。

 身長180センチ、体重90キロの体格から繰り出す直球の最速は155キロ。その数字が一人歩きしているが、実は縦横のスライダー、フォーク、スプリット、カーブ、カットボールにチェンジアップと変化球が多彩な右腕だ。だから、「力投派に見られるんですけど、永遠のテーマは軟投派」と言い、「力投派と言われるんですけど、自分の中では常に軟投派を目指したいと思って投げています。自分は常に軟投派になりきって投げているので」とサラリ。そして、「あとは、9回を27球で終わらせるのがテーマ」とも。そんな投手像を語る目が輝いている。

 富士大との決勝は天候により24日になった。その2日後には、いよいよ運命の日を迎える。その時を、チーム初の明治神宮大会出場を決めて待てるか。「コンディションはきちんと整えておきたいと思います」。まずはドラフト会議前最後の公式戦に集中する。

(Full-Count編集部)

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