社会人は打高投低、清宮回避で一本釣りも…元阪神ドラ1藪氏が見るドラフト

阪神OBの藪恵壹氏【写真:岩本健吾】

目玉は高校通算111本塁打の清宮も…「他にもいい素材はいっぱいいますからね」

 10月28日から日本シリーズが始まる日本プロ野球。ソフトバンクとDeNAの日本一を懸けた熱戦が期待されるが、同時に各チームが来季に向けてのチーム作りに取り組んでいる。新戦力の獲得舞台として注目を集めるプロ野球ドラフト会議は10月26日開催。それに先駆け、10月12日に高校生と大学生のプロ志望届提出が締め切られた。

 今年の目玉は、言わずもがなの早実・清宮幸太郎内野手だろう。中学時代から注目を集めていた逸材で、史上最多とされる高校通算111本塁打を記録。プロ志望届を提出後の2日には、10球団と面談を行い、育成方法などについて話を聞いたという。“超高校級”スラッガーが世間の注目を一身に受ける中で、「表向きは清宮獲得と言っておいて、他を一本釣りする球団も出てくるでしょうね」と語るのは、元メジャー右腕で阪神OBの藪恵壹氏だ。

「清宮君だけじゃなくて、他にもいい素材はいっぱいいますからね。安田君(履正社)、中村君(広陵)も本当にいい選手。高校生であれだけのスイングができる。まだ伸びしろもあるだろうし、これから楽しみですよね。競合を避けて一本釣りするかどうかは、補強ポイントにもよるでしょう。でも、清宮獲得と表明しながら、当日になって他の選手を指名する球団があってもおかしくないと思います。

 正直なところ、清宮君は12球団どこだって欲しいはず。あれだけ人を惹きつけられる魅力を持つ人間は、そうそういないから。同時に、彼はNPBの先にMLBという将来的な目標をすでに持っている。そこに対するビジョンが一致する球団があるのか。早めに面談をしたポイントもそこでしょうね」

 藪氏が阪神に入団したのは、1993年のドラフトだった。NPBは、この年から“逆指名制度”を導入。東京経済大を卒業後、社会人野球の朝日生命でプレーしていた藪氏は、逆指名制度を利用したドラフト1位として、伝統球団入りを果たした。「ドラフト前に話はほぼまとまっていたから、希望球団を書いた用紙をNPBにファクスで流したら、それでおしまいでしたよ(笑)」と笑いながら当時を振り返る。

「ファクスは会社から自分で流しました。もちろん『阪神』って書いたけど、もし『12球団OK』って書いたらどうなるのかな、なんて思いながら(笑)。逆指名会見の後だったから、そんなことできないけど」

「人柄を知るほど、この人は嘘をつけない人だな、この人を裏切ったらダメだなって」

 憧れの球団、優勝が狙える球団…。球団を選ぶ基準は人それぞれだが、藪氏には担当スカウトの人柄や熱心さが決め手になったようだ。

「阪神、巨人、オリックス、近鉄。いろいろな球団が見に来てくれたけど、阪神で関東担当スカウトだった菊地(敏幸)さんには大学の頃から見てもらっていた。人柄を知るほど、この人は嘘をつけない人だな、この人を裏切ったらダメだなって思うようになったんですよ。そういう人間関係ってありますよね。

 巨人の寮長もやっていた木戸(美摸)さんも、社会人の時にはグラウンドが近いこともあって、毎日来てくれましたね。奥さんが車を運転して、木戸さんは助手席からスカウティングしてました」

 自身と同じ、社会人野球出身選手の動向は、やはり気になる。社会人では2001年まで金属バットが使用されていたが、2002年からは木製バットを導入。この結果、より即戦力として起用できる打者が増えた。

「社会人は金属から木のバットに変わって、野手に外れが少なくなりましたね。DeNAの倉本君、戸柱君とか、今年で言えば、西武の源田君。プロに入ってもバットが変わらないから、そこでの適応力が問われることがなくなった。昔の社会人野手は、プロに入ると苦労する人が多かったけど、かなり減りましたよね。

 その一方で、投手はやや力が落ちているようにも見える。前は、金属バットでどんどん打たれる中でも抑える投球を身につけようとしていたから。オリックスの山岡君とかいいピッチャーだと思うけど、社会人出身の投手は少し苦しむ傾向にありますね」

 運命のドラフトまであと1日。その当日は、逆指名だった藪氏でも「名前を呼ばれるとうれしさはあった」と振り返る。今年は何人がプロ野球選手という夢に向かって、大きな一歩を踏み出せるのか。10月26日。ここから数々のドラマが生まれそうだ。

(Full-Count編集部)

© 株式会社Creative2