【特集】時代は「ネオレトロ」 ライダー高齢化でバイクメーカー

カワサキの「Z900RS」
BMWの「R nine T Urban G/S」
スズキの「SV650X」
ヤマハの「XSR700」

 2年に1度の車・オートバイの祭典「東京モーターショー」が東京ビッグサイト(東京都江東区)で始まった。オートバイメーカー各社は古くて新しい「ネオレトロ」というカテゴリーのバイクを相次いで発表。背景にはライダーの平均年齢が50歳を超えるなど、バイク利用者が高齢化している事情もありそうだ。(共同通信=太田清)

 ▽人だかり

 25日の報道関係者への公開初日。川崎重工業(以下カワサキ)のブースではベールがかけられた1台のバイクの前に記者や写真記者の人だかりができた。ベールが外されると一斉にカメラのフラッシュがたかれ、一瞬目がくらむ。話題の新型バイク「Z900RS」のお披露目だ。Z900RSは往年の名バイク「Z1」をイメージした新型バイク。カワサキがバイクの全体像を明らかにしないティーザー(じらし)動画広告を流すなどしてバイクファンの関心が高まっていた。

 Z1はカワサキが1970年代に販売した排気量900ccのバイクで、当時としては最新型のDOHCエンジンを搭載。その斬新なスタイルと高性能が人気を呼んだ。40年も前のバイクながら現在も絶版車(生産されていない旧車)として程度のいいものは300万円以上で取引されるなどマニアの間では絶大な人気を保っている。

 12月1日に発売されるZ900RSはティアドロップ(涙のしずく)型のタンク形状や「火の玉カラー」と呼ばれるオレンジ色のペイント、独特のテールカウルなど遠目にはZ1とそっくり。しかし、水冷エンジン(Z1は空冷)や倒立フロントフォーク(同・正立フォーク)、リヤのモノサスペンション=緩衝装置(同・2本サス)、ブレーキ時のスリップを防止するABSなど機能的には現代の技術を用いており、最高出力も110馬力以上。まさに見てくれは古いが中身は最新という「ネオレトロ」を代表するバイクだ。

 カワサキ・マーケティング部の占部弘晃さんは「若いころにZ1に憧れながらも高くて買えなかった人や、懐かしむ人が新型に関心を持ってくれるはず」と、シニアの購買層に期待する。価格は129万6000円からで、年間目標販売数は2500台。

 ▽成長

 ドイツのバイクメーカー、BMWもネオレトロ路線で勝負する。モーターショーで「R nine T」シリーズの最新版「Urban G/S」(189万9000円)を展示。1980年代に人気だった悪路に強いエンデューロモデル「R80 G/S」の現代版。伝統の空油冷水平対向2気筒エンジンながら最高出力は110馬力と、これも性能は「現代」だ。ブランドマーケティング・スペシャリストの大西洋介さんは「50歳以上のシニア層もターゲットだが、『おしゃれでかっこいい』と感じる若い人にも乗ってもらいたい」と語る。アドベンチャーやツーリングタイプの印象が強いBMWのバイクだが、今やネオレトロ「R nine T」シリーズは同社の国内販売の3割を占めるまでに成長したという。

 スズキはカウル(風防)を持たないネイキッドバイク「SV650」をモディファイした新型「SV650X」を参考出品。低くて幅の狭いセパレートハンドルに独特の形状のロケットカウルを持ち、60~70年代に人気だったカフェレーサーをほうふつさせるイメージを狙ったという。ビキニカウルとタンク横のサイドカウルがつながって横から見るとロケットカウルに見えるデザイン、セパレートハンドル、一人乗りのシングルシート風タックロールシート、LED採用のフォグランプなど工夫を凝らした。「カフェレーサーのイメージとはいえ、ハンドルは極端に低くせず、エンジンも中低速で扱いやすいV型2気筒を使うなど、通勤通学にも使える間口の広いモデルにした」と開発を担当したチーフエンジニアの安井信博さん。

 ▽2大メーカーも

 2大メーカー、本田技研(以下ホンダ)とヤマハ発動機(以下ヤマハ)も負けていない。ヤマハが11月6日からの国内販売を発表したのは排気量700ccの「XSR700」。丸形メーターやアルミタンクカバー、ステアリング・ヘッドからテールカウルまでを水平にしたホリゾンタルラインなど「モダンでレトロ」(広報・商品企画グループの菊地真由美さん)なイメージ満載。直列2気筒の扱いやすいエンジンを積み車両重量186キロと軽量だ。

 多くのメーカーがレトロとは言いながら、水冷エンジン、モノサンスペンションなど中身は現代の技術を用いているのに対し、ホンダは空冷4気筒エンジン、2本サスと伝統のスタイルを変えないCB1100を販売。モーターショーではCB1100RSにシート、マフラー、ミラーなどの改造を施した「カスタマイズド・コンセプト」を出品した。ヤマハなど多くのメーカーが年々厳しくなる排気ガス・騒音規制に耐えかねて空冷エンジンモデルの生産を中止する中、ホンダは「今のままでも十分規制はクリアできる」(二輪広報課の尾崎巨典さん)と胸を張る。多少性能は落ちても、空冷エンジンのフィーリングやフィンが付いた空冷独特のエンジンなどを評価するファンはまだまだ根強いという。

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