【価格上昇基調続く国内薄板】追加値上げ、浸透度合い焦点 二三次流通、再販価格上げ急ぐ

 薄板需給のタイト感が強まっており、堅調な需要も背景に国内薄板市況は上昇基調を続けている。国内メーカーは店売り向け主体に、昨年からの主原料コストアップ分の転嫁に相当するトン2万円程度の値上げを今年度上期までにほぼ実現。今年度下期は、持続的に再生産可能な価格を実現するための次のステージに移っている。

メーカー、ヒモ付き向け交渉も加速

 もともと昨夏に原料炭価格が急上昇する以前、国内高炉メーカーは「今の価格は、需要家ニーズに対応した設備投資や研究開発負担費用を含めた再生産可能なレベルに達していない。陥没是正を含めて価格改善が必須」との価格方針を打ち出していた。それが昨夏からの原料炭価格急騰を受けて、いったんは棚上げ状態に。原料価格上昇分の転嫁が第一優先課題となり、多少の時期ずれや値上げ幅の違いはあるものの、総じて需要家の理解を得た格好となった。

 高炉など薄板メーカー各社は「今年度下期は、いよいよ懸案である『持続的に再生産可能な価格』を実現するタイミングだ」と考えている。「マージン改善」「再生産可能な適正価格」「設備高齢化や製造基盤整備への対応」「コスト見合いの価格」「商品価値に見合った価格実現」などメーカーによって表現は異なり、値上げの進め方にも多少の違いはあるが問題意識は同様だ。亜鉛などの市況原料や物流コスト上昇の価格転嫁もあり、追加値上げの完全浸透を図ることが必要との強い姿勢で臨んでいる。

 新日鉄住金は先日、追加値上げで打ち出しているトン5千円のうち「店売り向けでトン3千円程度が浸透した」ことを明らかにした。他のメーカーでも昨年ボトム比で累計トン2万3千円程度の値上げの動きが見られるなど、需給タイト化や需要出現を背景に、価格上昇が進んでいる状況だ。

 店売りのみならず、パイプ・リロールを含むヒモ付き・準ヒモ付き向けでも、高炉メーカーは従来にないほどの強気姿勢で臨んでおり、交渉は佳境を迎えている。

 市場では「メーカーの本気度は十分に理解している」と受け止められている。新日鉄住金が国内店売り向けの引き受け数量5割カットを公表したが「今までは酸洗鋼板の不足が目立っていたが、ここにきて熱延コイル(黒皮)や溶融亜鉛めっき鋼板でも歯抜けサイズが出始めている」との指摘も聞かれる。

 輸入材の主要ソースである韓国ポスコや台湾CSCも累計で「2万円超」の値上げの動きを進めている。両社ともにロールはタイトで、今のところ日本向けに積極的に売り込む理由は見当たらない。販売量は店売りやリロール向けを中心に削減傾向にあり、価格優先姿勢を貫いている格好だ。

 ユーザーサイドからは「海外ミルが供給を絞っているため、大幅値上げを受け入れてでも国内で手当てせざるを得ない」との声も聞かれる。

 メーカー値上げを背景にコイルセンターなど流通筋も価格転嫁を急いでいる。ただ、店売り定尺品はスポット取引が多いため、ある程度は高唱えも浸透しているが、ユーザー向けは価格転嫁の動きが停滞気味だった。今年夏ごろまでに第一弾の値上げが行われたものの、その後は「メーカーは追加値上げを見送るのではないか」とみる向きすらあり、盆明け以降の価格転嫁への取り組みはあまり進展しない側面もあった。

 ここにきて採算改善に対するメーカーの取り組みが本格化するのに伴い、ユーザー向けの値上げ機運も高まりつつある。

 そうした中、二次加工分野等における製品価格動向が注目されるところだが、こうした分野も原板価格は確実に上昇している上、各社の値上げ姿勢もそろってきていることなどから、年末にかけて価格上昇するとの見方が強まりつつある。

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