「これで重労働から開放されます!」 農薬散布機「ヘリオスアグリ5」購入者の講習に同行した!

 ドローンの農業活用が広がる中、農薬散布のためにドローンを購入した千葉県東金市の稲作農家に、メーカーが使い方の講習を行うと聞きつけ、同行した。「ヘリオスアグリ5」を購入した日暮俊雄さん(62)は、2時間足らずの試運転でコツをつかみ、「これで重労働から開放されそう」と手ごたえを感じた様子だった。

きっかけは重労働からの解放を目指して

 千葉県東金市で稲作農家を営む日暮俊雄さん(62)が専業農家になったのは約7年前だ。それまでも父親の手伝いをし、コンバインやトラクターは動かしてきたため、心得もあったので、専業になっても違和感はなかった。それでも、つらい作業がある。病害虫や雑草の繁茂を防ぐための農薬散布の作業だ。
 「田んぼにまんべんなくまくには、一か所にたって噴霧させればすむ、とはいかないんです。ホースをひっぱって、それをもって田んぼの中に入っていくわけです。ひっぱる長さは80メートルになるでしょうか。これが重い。夫婦で作業を分担してやっていますけれど、『このつらい作業だって、1年中やるわけじゃない。いまだけだから』って自分たちに言い聞かせてなんとか続けています。それでもどうにかできないか、とずっと思っていました。そんなときにドローンで農薬散布ができると聞いて、調べてみることにしました」

「適時に撒けるように」と農薬散布ドローン「ヘリオスアグリ5」の導入に踏み切った日暮俊雄さん(右)。夫婦でホースを引っ張る重労働から解放されるため、HUME(ヒューム、東京)のドローン事業「東京ドローンプラス」のスタッフが見守る中ドローンを離陸させた=7日、千葉県東金市田中

機体は4・5キロ FCにはDJI「N3」

 日暮さんはその後、いくつかのメーカーの製品を検討した。購入することを決めたのは、株式会社HUME(ヒューム、東京)のドローン事業「東京ドローンプラス」が展開する「ヘリオスアグリ」シリーズの「ヘリオスアグリ5」だ。
 ヘリオスアグリ5は全幅1215ミリメートル、全高435ミリメートル、重量4・5キロのクアッドコプターで、22.2V/5500mAhバッテリーを積む。5リットルの液剤を搭載できるタンクを搭載する。なお、シリーズには10リットル対応の「ヘリオスアグリ10」もある。日暮さんが所有する圃場の大きさを考え、「5」を選んだ。
 農薬散布ドローンで、メーカーの腕の見せ所のひとつが、タンクの中でゆれる液体をうまく運べるかどうかだ。液体が機体の加減速でタンク内で揺れると、ドローンの重心が微妙にずれる。このため機体の姿勢を保つ工夫が必要になる。ヘリオスアグリ5は、液体の揺れによるフライトへの悪影響を最小限に食い止める工夫のひとつとして、独自形状のタンクで解消している。
 農薬には液状のほかに粒状のものもあり、ヘリオスアグリ5には、オプションで粒剤用のタンクも用意されている。
 農薬散布のためのノズルは4頭で、最大散布幅は最大約5メートル。散布時の飛行時間は最大6分だ。フライトコントローラーには、DJIの「N3」を採用した。価格は税別で65万円。料金にバッテリー、充電器、散布機、送信機のほか、購入時講習も含まれている。
 日暮さんは、「農薬散布ドローンはいくつか見ましたが、その中で性能に満足でき、価格に納得感があるものを選びました」というと、さっそくフライトに挑戦することになった。

安定した飛行をするヘリオスアグリ5。

実用開始は来春に 「それまで腕を磨きます!」

 日暮さんの講習は、ヒュームのDJIの技能認証も持つ森田純一さんがマンツーマンであたった。同社の小島孝夫さんがサポートをし、機体の開発者、愼和晟(しんかずなり)さんも立ち会った。
 講習は午後1時すぎから、開始。ドローンの性能、安全確保、法令、飛行させるときの手続きなどの一般的な知識をを伝授したあと、さっそくこの日の訓練場である日暮さんの田んぼに繰り出し、実際に操縦をしてみることになった。農薬のかわりに水を散布する訓練をすることを見込み、あらかじめ「物件投下」の個別申請をしているという。
 日暮さんのドローン経験も皆無ではない。「小型のトイドローンの経験があります。名前は覚えていませんが、通信販売で評判がよかったものを買って、庭で飛ばしています。でも、本当にそれだけ。それより大きなものは飛ばしたことがないので、緊張します」と話した。
 講習では、その大きさになれることと、操縦の感覚を味わうことを目的に、まずはDJIのファントムのフライトに挑戦する。森田さんが模範飛行をみせながら、機体と操縦者との距離の取り方、プロポの使い方、どこを見るか、などを伝授。ひととおりの動きを確認したら、いったん着陸させ、今度は、日暮さんがフライトに挑戦する。トイドローンの経験が生きて、初心者とは思えないプロポ裁きで難なくファントムを飛ばしてみせると、森田さんから「うまいですね」と声をかけられた。日暮さんは「いえ、ドキドキでした」と緊張の面持ちをくずさなかった。

先ずはファントムで圃場の上を飛ばし、ウォーミングアップ

 ファントムをとばせることを確認し、主役の「ヘリオスアグリ5」の操縦に移ることとなった。
 森田さんが「フライト前点検」について、テキストを示しながら、機体が正面をむいているか、機体にゆるみがないか、バッテリーにぐらつきがないかなどを点検する。そのほかの手順も含め、一通りの説明が終わりると、森田さんがヘリオスアグリ5の模範操縦を見せる。
 ファントムより大きめで、農薬がわりの水の入ったタンクを抱えた機体は、ファントムより重厚な音でふわりと浮き上がり、上空でホバリングをしたあと、安定したフライトをみせた。日暮さんは、その様子をじっくりみていた。一周したあと、日暮さん自身がフライトをする番となった。
 森田さんに教わった通りに、ときおりマニュアルを見ながらフライト前点検を終わらると、送信機をつかって離陸。ふわりと浮かぶと、ゆっくりと圃場をまわった。方向をかえるときの動きなど、操作の途中で、森田さんが声をかけてコツを教える。往復したり、周回したりと、一通りの動きを確認して、着陸させる。着陸させるときにも「着陸場所をきちんと確保してあることが、飛ばすことそのものよりも大事なんですよ」などと教わる。

マニュアルに従ってカリブレーションを行う日暮さん。

 一度、着陸をさせたあと、ノズルのついたアームをとりつけてフライトを再スタート。今度は実際に水もまいて、農薬散布の感覚も味わった。
  この日のフライトの講習は約2時間。日暮さんは「機体は思った以上に安定していました。あとは自分の腕ですね。練習を積んで、もっと精度を高めていこうと思います」と笑顔を見せた。日暮さんは今後、来年4月下旬から5月初旬には、実際にドローンで農薬を散布することを念頭に置いている。「ドローンを使う意味は、重労働から開放されるため。でもドローン導入で実際に一番喜ぶのは、うちの女房かもしれません。相当きつい作業でもできちゃうわけですから」と意欲を見せていた。
 講習の終了まぎわに、開発者の愼さんがこう付け加えた。「ドローンは、飛ぶ以上、必ず落ちるものだと思ってください。どんなに安全に飛ばしても、どんなに性能を高めても、落ちるときには落ちます。それを見越したうえで、被害を最小限にするか、とうことを一番に考えないといけません」。 

この日まで操縦経験はトイドローンだけだった日暮さんだが、農薬散布ドローンを最初から上手に操った。

 日暮さんは「実は、それを実感しているので、クラッシュする動画をみて、危機意識を根付かせています。ドローンはやさしくておとなしいヒツジのイメージがありますが、いったん事故になればそうはいえなことを肝に銘じます」などと応じた」
 愼さんは「われわれはだれでも使えるドローンを目指しています。ヘリオスアグリ5はこれまでの成果ですが、これで完成だとは思っていません。今後も使いやすく、安全で、コストパフォーマンスの高い機体の開発を続けないといけないと思っています」と話した。

ヒュームの千葉ベースで出荷を待つヘリオスアグリ。 ヘリオスアグリ5:http://tdplus.jp/helios5/

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