【MLB】世界一アストロズは現代版マネーボール!? 米メディアがデータ活用術を分析

ワールドシリーズ制覇を果たしたアストロズ【写真:Getty Images】

WSを戦った2チームは、ともにデータ活用で名高いチーム

 今季ワールドシリーズ(WS)で第7戦まで激闘を繰り広げたアストロズとドジャース。最終的にはア・リーグ覇者のアストロズがドジャースを下し、球団史上初の世界一に輝いた。実は、この2チームには共通点がある。それは、チーム編成や戦略面でデータを大いに活用している点だ。1990年代後半からメジャーではセイバーメトリクスと呼ばれるデータ解析が取り入れられるようになったが、アストロズはコンピュータが弾き出す“ハード”データと、人間が集める“ソフト”データを上手く活用した例だと、米IT専門サイト「テックリパブリック」が分析している。

 アストロズは2011年にジム・クレイン氏が球団を買収後、カージナルスで独自のデータ評価システムを作り上げたジェフ・ルーノー氏をGMに迎えるなど、データを重視したチーム作りに徹底した。記事では「真の破壊再編のため彼らは本当に尽力した」というMLBに公式データを提供する「STATS」のデータ運用部門のオドネル上席副社長の言葉を引用している。

 メジャーの中でデータ活用を重視しているチームとして名高いのは、アストロズ、ドジャースに加え、ヤンキース、レッドソックス、カブスらが挙げられる。いずれのチームも今季プレーオフにコマを進めている他、若手を中心としたチーム再編に成功。前出のオドネル上席副社長は「データ分析に投資していない球団は、間違いなく船に乗り遅れている」とまで言い切っている。さらに、最近数年で「STATS」社からアストロズに6人も社員が引き抜かれたという。

「“ソフトな”データと“ハードな”データをどのように統合するか」

 だが、データ解析システムを導入するだけでは、どのチームにも同じことを真似られてしまう。アストロズがなぜ世界一を手に入れられたのか。記事では、Dell EMC社のシュマーゾCTOの見解として「アストロズは“ソフトな”データと“ハードな”データをどのように統合するかを見い出した」と結論づけている。

 ここで言う「ハードなデータ」とは、セイバーメトリクスで示される成績や数値のこと。一方で「ソフトなデータ」とは、数字では表せない選手個々の「回復力、粘り強さ、心の強さ、対人力」といった情報だ。コンピュータが弾き出す結果だけで選手を紋切り型に扱うのではなく、そこに人間の感覚でもある「ソフトなデータ」を上手く織り交ぜたことで、アストロズは世界一のチームを築くことができたのだという。

 さらに、アストロズはスプリンガー、カイケル、コレア、ブレグマンら、ドラフトで獲得した生え抜き若手選手と、アルトゥーベやグリエルら海外選手を上手く統合し、より低年俸で世界一チームを実現させた。これについて、サンフランシスコ大学助教授で分析コンサルタントを務めるメヘロートラー氏は、2000年代前半のアスレチックスを引き合いに出し「『マネーボール』に似ている」と指摘したそうだ。

 データと人間の感覚を織り交ぜ、比較的低予算で最強チームを作り上げたアストロズは、まさに「現代版マネーボール」なのかもしれない。

(上岡真里江 / Marie Kamioka)

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