パのゴールデン・グラブ賞をデータで検証…意外、順当、選出あれこれ

ソフトバンク・今宮健太【写真:藤浦一都】

選手が「一番取りたい賞」をポジションごとに検証

 11月9日にNPB「2017年度 三井ゴールデン・グラブ賞」が発表された。「守備のベストナイン」を選出するもので、プロ野球担当記者の投票により受賞者が決まる。

 プロ野球選手に話を聞くと、ゴールデン・グラブ賞は「一番取りたい賞」の1つだという。同賞のトロフィーは、受賞選手が使用しているグラブに金色の塗装をしたもので、選手オリジナルとなる。一塁と三塁で受賞をすれば、金色のグラブとミットをもらえる。プロ選手として活躍した証になるし、手に入れたい物だそうだ。

 両リーグ18人の受賞者は、新聞社、通信社、テレビ局、ラジオ局のプロ野球担当記者投票で選ばれる。守備成績は、野球の中で最も数値化が遅れている分野で、比較できる数字が少なく、印象に頼らざるを得ない部分も多い。

 今季のゴールデン・グラブ賞が、どんな基準で選ばれたか。ポジションごとに比較検討したい。

 パ・リーグ野手は規定試合数(95試合)以上の選手に加え、72試合以上出場した選手の成績も並べた。RF(Range Factor)は1試合当たりにアウトにした数を示す。

〇一塁手 守備率、RFに加え、1試合当たりの補殺(主としてゴロ)の処理数A/Gで比べる。RF順

中田翔(日)126試 守率.993 RF9.32 A/G 0.70
メヒア(西)73試 守率.990 RF9.15 A/G 0.60
明石健志(ソ)72試 守率.998 RF5.68 A/G 0.32
銀次(楽)112試 守率.994 RF5.61 A/G 0.27

★ゴールデン・グラブ賞 銀次(楽天)

 守備率1位は明石だが試合数が少ない。銀次が選出されたが、RFもA/Gも中田翔が圧倒的に上だ。銀次は一塁手としては優秀とは言えない。中田翔は今季打撃不振に苦しんだことが、ゴールデン・グラブ賞の選考にも影響したのではないか。

〇二塁手 守備率、RFに加え、1試合当たりの併殺参加数DP/Gで比べる。RF順

鈴木大地(ロ)143試 守率.993 RF5.32 DP/G 0.62
浅村栄斗(西)137試 守率.982 RF4.88 DP/G 0.60
西野真弘(オ)80試 守率.984 RF4.54 DP/G 0.53
藤田一也(楽)94試 守率.994 RF3.41 DP/G 0.41

★ゴールデン・グラブ賞 鈴木大地(ロッテ)

 今季遊撃からコンバートされたロッテ鈴木は、西武の浅村よりも守備率がかなり良く、守備範囲も抜群に広かった。二塁手でRF5以上は優秀な数字だ。順当な選出だろう。

三塁手はやや衰えの傾向、遊撃は新人源田が躍進も…

〇三塁手 守備率、RF DP/Gで比べる。RF順

ウィーラー(楽)137試 守率.936 RF2.36 DP/G 0.15
中村剛也(西)108試 守率.957 RF2.28 DP/G 0.10
レアード(日)136試 守率.942 RF2.15 DP/G 0.13
松田宣浩(ソ)143試 守率.967 RF2.05 DP/G 0.13
小谷野栄一(オ)105試 守率.942 RF1.70 DP/G 0.12

★ゴールデン・グラブ賞 松田宣浩(ソフトバンク)

 最近のパ・リーグには、守備で目立つ三塁手があまりいない。三塁手のRFは2.40は欲しいところだ。松田のRCは、昨年の2.43から大幅に下落。守備率は1位だが、フル出場した選手としては少し厳しい数字だ。同い年の西武・中村とも同じく三塁守備がやや厳しくなっているのでは。最もRFがよかったのは楽天ウィーラーだが、守備がうまい印象はない。松田が消去法で選ばれた可能性も否めない。

〇遊撃手 守備率、RF DP/Gで比べる。RF順

源田壮亮(西)143試 守率.971 RF4.96 DP/G 0.62
安達了一(オ)105試 守率.986 RF4.57 DP/G 0.60
中島卓也(日)91試 守率.977 RF4.26 DP/G 0.46
今宮健太(ソ)140試 守率.988 RF4.00 DP/G 0.39
茂木栄五郎(オ)87試 守率.977 RF3.85 DP/G 0.47
三木亮(ロ)78試 守率.982 RF3.59 DP/G 0.47

★ゴールデン・グラブ賞 今宮健太(ソフトバンク)

 今季は西武の新人、源田が驚異的な守備範囲を見せ、データアナリストたちを驚かせたが、ゴールデン・グラブ賞はソフトバンク今宮が5年連続で受賞。確かに源田はリーグ最多の21失策。厳しい打球も追いかけるため、失策も多かった。ただ、今宮のRFはかなり低い。源田とは1試合当たりのアウト処理数が1個近く違う。これをどう見るかで、評価は変わってくるだろう。

〇外野手 守備率、RFに加えて、外野から走者をアウトにした数である補殺数を示す。10個を超えると強肩とされる。

西川遥輝(日)138試 守率0.993 RF2.05 補殺 2
島内宏明(楽)139試 守率0.996 RF2.00 補殺 4
秋山翔吾(西)143試 守率0.99 RF2.00 補殺 7
松本剛(日)105試 守率0.995 RF1.97 補殺 6
大田泰示(日)102試 守率0.995 RF1.95 補殺 3
角中勝也(ロ)101試 守率0.985 RF1.92 補殺 5
荻野貴司(ロ)101試 守率0.995 RF1.87 補殺 6
柳田悠岐(ソ)130試 守率.996 RF1.84 補殺 6
中村晃(ソ)137試 守率.996 RF1.81 補殺 6
岡島豪郎(楽)105試 守率1.000 RF1.79 補殺 3
ロメロ(オ)78試 守率1.000 RF1.67 補殺 1
T-岡田(オ)116試 守率.984 RF1.63 補殺 3
駿太(オ)115試 守率.995 RF1.6 補殺 2
外崎修汰(西)118試 守率.989 RF1.53 補殺 4
加藤翔平(日)90試 守率.986 RF1.53 補殺 5
上林誠知(ソ)130試 守率1.000 RF1.37 補殺 10
聖澤諒(楽)91試 守率.991 RF1.19 補殺 2
木村文紀(西)101試 守率.982 RF1.06 補殺 1

★ゴールデン・グラブ賞 秋山翔吾(西武)、柳田悠岐(ソフトバンク)、西川遥輝(日本ハム)

 外野は日本では1つのポジションとされるが、MLBでは右翼、中堅、左翼に分けて評価される。守備機会が圧倒的に多いのは中堅、次いで右翼、補殺は右翼、左翼の順。守備範囲の指標であるRFで評価すると、中堅手が上位に来る。ゴールデン・グラブ賞の秋山、柳田、西川はともに中堅手(西川は左翼も守った)。3人とも守備に定評があり、過去にも受賞歴がある。しかし、今季の柳田はRFが2を割り込み、守備範囲が狭くなっている。

 楽天の島内は今季初めて規定打席に達し、守備での貢献度も高かった。これも評価したいところだ。上林は主に右翼を守って10補殺。彼も今季からのレギュラーで、走者の警戒心が低かったこともあって多くの補殺を稼いだ。右翼だけで選出するなら上林が選ばれる可能性があっただろう。

捕手はホークスの強肩・甲斐が受賞

〇捕手 守備率に加え、盗塁阻止率(SB%)とパスボール数(PB)を出す。守備率順。

甲斐拓也(ソ)102試 守率0.999 SB% .324 PB3
高谷裕亮(ソ)92試 守率0.998 SB% .194 PB2
炭谷銀仁朗(西)104試 守率0.997 SB% .327 PB6
田村龍弘(ロ)130試 守率0.996 SB% .337 PB6
伊藤光(オ)93試 守率0.996 SB% .323 PB3
嶋基宏(楽)112試 守率0.996 SB% .289 PB3
大野奨太(日)80試 守率0.995 SB% .098 PB3
若月健矢(オ)99試 守率0.992 SB% .255 PB2

★ゴールデン・グラブ賞 甲斐拓也(ソフトバンク)

 捕手の失策は得点に結びつくことが多い。守備率は重要視したい。そして盗塁阻止率も重要だ。今季のパ・リーグには阻止率が.350を超える捕手がなく、やや低調だった。甲斐は高谷と併用されたが、守備率も高く、盗塁阻止率もまずまずで、順当な選出ではないか。気になるのは日本ハムの大野。盗塁阻止率が1割以下で走られ放題だった。投手の問題もあろうが、FA宣言をする中、懸念される数字だ。

〇投手 守備率とRFを出す。規定投球回数以上。RF順。

菊池雄星(西)26試 守率.963 RF2.00
有原航平(日)25試 守率.979 RF1.88
涌井秀章(ロ)25試 守率1.000 RF1.68
則本昂大(楽)25試 守率.974 RF1.52
二木康太(ロ)23試 守率.971 RF1.48
美馬学(楽)26試 守率.878 RF1.38
金子千尋(オ)27試 守率.974 RF1.37
山岡泰輔(オ)24試 守率.969 RF1.29
岸孝之(楽)26試 守率1.000 RF1.27
東浜巨(ソ)24試 守率.966 RF1.17
千賀滉大(ソ)22試 守率.962 RF1.14
野上亮磨(西)24試 守率.962 RF1.04
バンデンハーク(ソ)25試 守率.960 RF0.96

★ゴールデン・グラブ賞 菊池雄星(西武)

 投手のゴールデン・グラブ賞は数字だけでなく、見た目の印象、反応の良さやフィールディングなどで評価されることが多い。また投手成績が良い選手が選出されることが多い。西武の菊池はRFも1位、野手として多くの打球を処理した。投手成績も抜群だったが、文句なしの選出ではないか。

 ゴールデン・グラブ賞は、有名な選手が選ばれることが多い。仕方がない部分もあるが、隠れた「守備の名手」を紹介して表彰するのも、記者の醍醐味ではないかと思う。多彩な視点で評価していただきたいと思う。

(広尾晃 / Koh Hiroo)

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