薄板・厚中板市場、需給改善「値上げ環境」整う 流通筋、〝メーカーの大口ヒモ付き交渉〟に注目

値上げ額「店売りとのバランス考慮を」

 鋼板類は薄板3品、厚中板ともに総じて需要が底堅く、日本国内をはじめ中国、韓国といったアジア市場全体で、目下は主たるメーカーの生産・供給体制と需要総量とがおおむねミートしてきたことから「需給の改善・引き締まり傾向が強まっている」とされる。

「潮目」が変化

 この機に、国内高炉各社は「持続的に再生産可能な価格レベル(収益確保)の達成」に向け、店売り分野のみならず、ヒモ付きやプロジェクト物件向けも対象に「上期に加え、下期も追加値上げ交渉を本格化させる」とし、大手首脳の公式コメントからも、不退転で臨む姿勢はうかがえる。

 一方、国内店売りマーケットでは、昨年来の断続的なメーカー値上げによる大幅な仕入れ値上昇分の売り値への転嫁が遅れていたが、品種や地域別でいまだ温度差はあるものの、仲間取引(同業者間売買)についてはようやく二次流通段階でもキャッチアップ。

 さらには中小エンドユーザー向け直需価格の改定についても、その機運がいよいよ鮮明になった。

 末端実需回復の手応えは、鋼板流通業もエンドユーザーも同様に感じている。ここにきて受注量が総じて増加傾向にあるからだ。

 ここに需給タイト化が加わって、それ以前の「ほしいモノがいつでも買える」という〝値段ありき〟の仕入れスタンスから「値上がりしても安定供給を持続してほしい」という〝調達ありき〟の購買姿勢に移ってきている。国内の鋼板マーケットは、川上だけでなく川下末端も確実に〝潮目〟が変わった。

値段よりも調達優先

 薄板、厚中板ともに販売店やコイルセンター、厚板シャー・溶断業ら流通扱い筋の売り腰が強まった最大の理由はひとえに「末端実需の復調・好転」である。それに伴って需給バランスも引き締まり、三次卸店や地方加工業者、中小エンドユーザーにも「春先や夏場までの『いつでも買える状況』ではなくなった」との認識が浸透。モノがないために失注しかねないケースも想定し「資材調達を優先」するようになった。

 流通扱い筋でも、末端実需の不振・停滞期には商権確保を優先し、エンドユーザーの指値に応じる格好で、局地戦では競合同士が受注ありきの熾烈な価格競争を繰り広げた。

 国内高炉大手の相次ぐ店売り一級品値上げ額は累計でトン2万円規模にのぼるが、実際の値上がり玉の入荷が断続的かつ遅延気味だった分、流通各社も比較的理解されやすい仲間取引値上げを先行。半面、直需向けは仕入れ値と売り値の値差(スプレッド)との見合いで、競合他社の出方などを注視しつつ、閑散期は「高唱えの打診」にとどまるケースも少なくなかった。

 それでも、さすがに今の入荷は2万円高の新玉に切り替わり、在庫平均単価も上昇。特に薄板流通では、春先に市況が踊り場を迎え、仮需の一巡と実需低迷による先安も警戒して仕入れを抑えた分、各社の在庫水準は低い。

流通の大口直需値上げ、いまだ道半ば

 目下の実需好転と需給改善の折、仲間取引の積み残し分の転嫁完遂を急ぐとともに、遅れていた直需向け価格改定実施への市場環境がようやく整った。

 首都圏の薄板流通筋では2万円の仕入れ値高に対し、仲間取引では素材の転嫁値上げがほぼ8~9合目に到達。一部は頂上にも達した。限られた手持ち玉を大切に売るためにも「さらに販価を引き上げ、選別受注も検討する」との姿勢を見せる。しかしながら自動車や建機、住宅設備・建材、電機OAといった大手アセンブリ関連ユーザーの、価格改定に対する抵抗はいまなお強く「大口ユーザーへの自販価格引き上げの高い障壁になっている」とも聞く。

 実際、自動車大手関連ユーザーとの取引では「メーカーの断続的な店売り値上げで仕入れ値が切り上がり、現行販価では採算割れに陥った。再三にわたって価格改定を申し入れたが『親会社の集購価格引き下げ』を理由に、逆に値下げを要求された。赤字幅の拡大を避けるため粘り強く交渉していたら全量を集購に切り替えられ、自販の商売を失った」。この背景には「詳細は不明ながら薄板大手と自動車大手とのヒモ付き結果が影響しているはず」とこの薄板流通は指摘する。この手の類の話は、建機分野や住設・建材分野でも同様に耳にする。

 需要好転と需給タイト化によって販価引き上げへの好機到来は、メーカーにとっても流通にとっても同じ。自販値上げは仲間、直需向けを問わず流通の自己責任だが、それだけに顧客サービスを重視しながら取引持続・商権維持を両立する上で「収支トントン」ならまだしも「赤字商売は絶対に避けたい」ところだ。

 メーカーの強調する「不退転でのヒモ付き価格改定」の実践が流通の背中を押し、遅れている大口直需価格改定にも弾みがつくだけに「店売りとのバランスを考慮した偏りのないヒモ付き値上げ幅」に期待を寄せる。

 もちろんメーカーは、そのステップは着実に踏んでいるはずであり「交渉も佳境を迎えた」と報じられているわけだが、流通としては「われわれの日々の末端商売の中で、その手応えを早く実感できれば」と切望するだけに「そろそろ交渉本格化の段階から一刻も早く〝具体的な値上げ刈り取り決着〟の実現に移行してほしい」のが流通の本音だ。(太田 一郎)

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