【補強】欧州出向きエース獲得 J1昇格 V長崎の航跡・1

 サッカーJ2、V・ファーレン長崎がJ1自動昇格を決めた。「古里にJを」。前身となる島原半島の市民クラブが夢へ向かって船出して13年。幾多の困難を乗り越えて、ついに国内最高峰のステージにたどり着いた。ここまでの航跡を振り返りつつ、来季に向けた課題を探る。

 昨年11月、監督の高木琢也と強化部の竹村栄哉は、欧州へ向かっていた。目的は「前線で起点になることができ、なおかつ、動ける大型FW」を獲得するためだった。

 チームはJ2参入4年目の昨季、過去最低の15位に沈んだ。リーグ戦全42試合の総得点は39にとどまり、総失点は51に達した。いずれもクラブワースト。相手ゴール前での決定力、強固な守備-。解決すべき問題は多かったが、その中でも得点力アップは最大の課題だった。

 当時就任4年目の高木が選手獲得のために、海外に出向くのは初めてのことだった。「並々ならぬ決意だったと思う」。周辺は明かす。

 事前にリストアップしていたのは2人。資料映像では背の高いオランダ人選手の方が有力候補だった。しかし、実際に現地でプレーを見てみると、足元がうまく、前線から献身的なディフェンスをするスペイン人選手のほうが魅力的だった。しかも、他のJクラブはノーマーク。「よし決めよう」。高木と竹村は即決した。その選手がファンマだ。

 高木サッカーの補強はまだ続く。

 安定したセービングに加え、攻撃を組み立てる起点にもなれるGK増田をJ1広島から、高さのあるヘディングで相手のロングボールをはじき返せるDF乾をJ2群馬から迎えるなど、守備の弱点を補える中堅を獲得。スピードが持ち味のMF澤田は2年越しのオファーが実り、同じくMFの飯尾、島田も加わった。

 右足でも左足でも正確なクロスを上げられるMF翁長と唯一本県出身のMF吉岡は、ともに大学を卒業したばかりのルーキー。将来性が十分に見込める逸材だった。

 必要なピースはほぼそろった。

 開幕直前の2月11日、17人の新顔と一緒に記者会見に臨んだ高木は力強く語った。「新たな長崎のサッカーを作り上げてほしい。自分もチャレンジしていきたい」

 その言葉どおり、ファンマは攻撃の要としてチームトップの11得点を挙げ、増田、乾は守備の柱で活躍。澤田は攻守で躍動し、翁長と吉岡は開幕試合からピッチで元気に暴れ回った。

 チーム自体も開幕戦の圧勝を皮切りに、V長崎の記録を次々と塗り替えていく。5連勝、12戦負けなし、最多23勝-。そして、J1昇格を決めた11日、伸び悩んでいた入場者が初めて2万人を超えた。

今季11得点と活躍したFWファンマ(中央)=諫早市、トランスコスモススタジアム長崎

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