【工場ルポ】〈芝浦グループ創業85年 インドネシア・バタム工場③〉建機需要回復で「繁忙感」 切断能力倍増、従業員数3倍に

 芝浦インドネシアバタム(SIB)の工場建屋は地続きのA、B2棟で構成され、このうちB棟は、素材ヤードを過ぎるとまず自動ドリル設備(ADS)があり、その先の左右にNCガス溶断ラインが計3台並ぶ。ガス切りする材料は、基本的にはすべてADSで先行穴あけ(ピアシング)するので全体リードタイムの短縮に寄与する。

曲げ能力、格段に向上

 もともと1台だったNCガスだが、2号機を昨年に芝浦シヤリングインドネシア(SSI)から移設し、3号機を今年春に新設(いずれも小池酸素工業製)した。特に3号機は定盤サイズを6・5メートルスパンとし、広幅母材でも2枚敷きできるので大型建機機種向けの小ロット多品種切板でも効率よく切断できるようになった。

高難度な開先加工をポータブルで

 NCガスの後方をガス開先エリアとした。建機部材には開先が付き物。それも複雑な曲線、角度変化、ルートフェース付きなど機械開先機では対応できない内容が多い。開先加工エリアを広く確保し、ここでポータブル設備を手にした作業者たちがさまざまな種類の開先を集中して行う。

 開先ヤードの手前には小型の225トンプレスブレーキ(日清紡製)が操業時から稼働しており、主に小物製品の折り曲げ加工を手掛けている。開先ヤードの先にある1千トンプレスブレーキは、ジャカルタでみつけたベルギーLVD社製中古品で今年7月から稼働しているが、長物加工や量産加工にすぐれており、導入直後から折り曲げ加工の生産性を飛躍的に高めることに成功している。

 その先には加圧能力500トン、1千トン、3千トンの3台の油圧プレスがレイアウトされ、小物・中物・大物用および特殊形状のプレス曲げ加工を手掛けている。3千トンプレスの最大加工幅は6・5メートル。極厚材の高精度角度曲げにも威力を発揮する。これら工程を経て製品置場に保管される。

幅4メートルの安全通路

高い機動力と技術力

 構内の安全通路は4メートル幅を確保。フォークリフトはもちろん、大型トレーラーも走行可能だ。手掛ける加工内容の多くが「大型・厚物」なだけに、加工設備も大型だが、これだけの設備群がひとつの建屋内に配置されていても手狭感や窮屈な印象はなく、それでいて縦横に構内を走り回るフォークをみていると工場全体の機動性やフットワークのよさを感じる。

 その一方で実に細かく、複雑で高度な曲げや開先加工は、オペレータへの技術指導の徹底とその教育水準の高さの裏づけだ。海外事業マネジメントに長く携わってきた大川伸幸社長の「本当に理解するまで根気よく何度でも繰り返し伝え、その都度確認する」という経験に基づいた方針・動機づけを垣間見る。

 同じ建機向け厚板加工でありながら、日本との類似点もあれば逆もある。「百聞は一見にしかず」。とりわけ〝芝浦ジャパン〟の現場スタッフにとって今回の視察は、実に有意義で参考になった。

「遊休地の将来活用」が経営テーマに

 2015年8月の操業開始から2年強が経過した。この間にSIBは、主要顧客であるCATの東南アジア強化戦略のもとダンプベッセル用部品加工に加えて大型油圧ショベル部品の加工にも着手。これに伴い、厚板の一次加工(切断)設備と二次加工設備を相次いで増設し、従業員数も立ち上げ当初の計28人(SIB社員18人とSSI応援スタッフ10人)が、今年8月末時点では総勢93人(SIB91人、SSI2人)へと3倍強に増えた。

工場建屋の壁面に突き出した「梁」が将来構想の布石

 切断能力も当初の1直シフトで月産400トン(2直で同600トン)が、今では1直で月産800トン(2直で同1200トン)と倍増。足元の世界的な建機需要の回復も背景に、一部設備が変則2直シフトをするなど繁忙感を取り戻しつつある。

 SIBのB棟建屋の南側に面した屋外は、壁に沿って砂利敷きの通路となっており、その奥にはまだ整備されていない遊休土地が広がる。ここは、将来の工場建屋増設を考慮しており、砂利道はその際に工事の二度手間とならないようにするための「備え」だ。

 同じく、B棟南側の壁から張り出している仕口の「梁」部分も、工場増設の二期工事を前もって想定しての事前対応である。

 アジア、東南アジアにおける建機の潜在的な需要増を念頭に、建機市場における圧倒的な世界最大手であるCATとの取引強化を見据え、その立地面での〝地の利〟も含めてSIBの空きスペースを将来、どう有効に活用するかが、芝浦グループの中枢であり将来の舵取りを担う大川社長の重要な経営テーマのひとつといえる。(太田 一郎)

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