北朝鮮、自国在住の華僑に「嫌がらせ」か…中国との関係悪化で

北朝鮮に暮らす5000人余りの華僑は、ほかの北朝鮮国民より出入国で有利な立場を生かして貿易業を営み、比較的豊かな暮らしをしてきた。また、中国に出稼ぎに行く人も多いが、中朝関係の悪化のあおりを受け苦境に追い込まれている。

華僑を含めた北朝鮮国民は、出国するにあたってもビザが必要だが、ある北朝鮮華僑が、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に語ったところによると、北朝鮮領事館はその有効期間を短縮してしまった。

先日までは、有効期間90日の出国ビザを受け取り出国後、期間満了直前になれば北朝鮮領事館で90日間の延長してもらえた。また、期間が過ぎても出国日から180日以内なら北朝鮮領事館で手続きをすることで遡って延長してもらえた。つまり、いずれの場合も半年間の滞在が可能だった。華僑はこれを利用して、中国で仕事をしていた。

ところが、滞在期間が180日から120日に短縮されてしまったのだ。

別の華僑によると、中国にやってきた華僑たちはレストランの従業員や、朝鮮語通訳として働くのが一般的だった。しかし、滞在可能期間が短くなってしまったため、中国の業者が彼らを雇おうとしなくなってしまった。仕事に慣れたころになって帰国されたらたまらないというのだ。

また、これを守らず「オーバーステイ」をしてしまったら、次回以降の出国ビザが得にくくなるようになった。一連の措置は、中朝関係を悪化を受けての北朝鮮当局による「嫌がらせ」だというのだ。

朝鮮王朝の末期から日本の植民地時代にかけて、中国から朝鮮半島に移住した人は数万人で、そのうち3分の2が現在の北朝鮮にあたる地域で暮らしていた。日本に替わり北朝鮮を統治したソ連の軍政当局は、華僑にも永住権を付与。華僑は1950年代末までは、一定の既得権と自治権を持っていた。

ところが、1958年に中国人民解放軍が北朝鮮から撤収したころから、華僑の立場が悪化し始めた。北朝鮮当局は、中国国籍の放棄を強いたり、教育言語を朝鮮語に変えさせるだけではなく、帰国か帰化かを迫った。そのような不寛容政策は、1971年に周恩来総理が北朝鮮を訪問するまで続いた。

金正恩体制に入ってから、華僑への締め付けが再び強化され、スパイ容疑で100人以上が逮捕された。中には銃殺された華僑もいると伝えられている。

一方で、英国のフィナンシャル・タイムズは9月17日の記事で、経済制裁に苦しむ北朝鮮にとって、対中貿易の3分の1を担う華僑の重要性が増していると報じ、丹東在住の宋天宇(仮名)さんの事例を紹介した。

1940年代に山東省から新義州に移住した華僑の祖父を持つ宋さんは10代後半のとき、兵役と金日成政権から逃れるために、中国に移住した。現在は、中国国籍の回復手続き中だ。

「多くの人が金正恩氏を嫌っている、あんな国に未来はない」と北朝鮮を批判しつつも、他人に「北朝鮮は悪い国」と言われると「とても腹が立つ」と語る宋さんは、中国キャリアの携帯電話を北朝鮮の友人に渡し、注文を受け付けて、服や靴などを送る商売をしている。

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