【トップインタビュー フジクラ・ダイヤケーブル・久下忠利社長】製販一体化・事業基盤を強化 情報通信分野など拡大

――まずは産業用電線メーカーとしての初年度を振り返って。

 「当社は建設用電線の販売会社だったが2016年4月にフジクラと三菱電線工業が手掛けていた産業用電線全般の製造・販売事業の移管を受けている。大手製造業や通信キャリアなど新たな顧客基盤ができたほか、品ぞろえも増えた。また製販が一体化された効果も出ている。製販一体化により営業や製造、技術が一堂に会する会議で情報共有ができるようになったほか、エンジニアが営業と顧客訪問するようになり市場の要望を効率的に共有した改善提案が可能になった。効果の一例としては表面の摩擦が少なくラックに配線しやすい「するするケーブル」の開発による製品競争力の向上などがある」

――顧客や扱い製品が増えたことでのメリットは。

フジクラ・ダイヤケーブル・久下社長

 「品ぞろえが増えたことで提案の幅を広げられた。例えば通信キャリアに光ケーブルとメタルケーブルの双方を拡販できる体制になったことに加え、電力ケーブルの劣化や事故などに関する診断装置もフジクラと三菱電線工業が持っていた技術を組み合わせてエンドユーザーに提供できるようになった。診断関連ではアフターサービスの面でも存在感を発揮し、将来的には電線のビジネスにもつながる可能性も期待ができる。またそれぞれの商圏だった顧客に対し互いの製品を売り込めている。フジクラが強みを発揮していた鉄道関連の市場で、三菱電線工業が扱っていた軽量で施工性が高い漏えい通信ケーブルを供給できているなど現在までに具体的なシナジーが出ている」

――今期の市場や業績についてはどのような見通しを。

 「建設用の電線は首都圏などの再開発で12月ごろから需要が改善してくると思う。顧客の工場などに当社が直接納める直需については製造業全体で国内回帰が進み設備投資が活発化しているため、需要が増えると見ている。通信ケーブルは通信キャリアや鉄道向けがけん引し、引き続き好調に推移しそうだ。17年度の売上高については出荷銅量が若干増え、銅価も高くなると予想されるため前期の611億円から増収の見通し。約26億円だった経常利益は建設関連の需要が増加してきたことや、好調な情報通信関連需要を取り込むことなどで引き続き高水準を狙いたい」

――供給体制などの見直しは。

 「建設用電線のボリュームゾーンである600VCVケーブルについては、顧客のニーズを慎重に見極めた上で供給体制を変えた。埼玉県の熊谷工場が東日本や北日本向け、愛知県のグループ会社シンシロケーブルが中部・関西や九州・四国向けに供給する体制を敷き、全体の最適化を図っている。これまでは製造能力やコスト競争力が比較的高いシンシロケーブルから主に調達していた。だが首都圏需要への対応や、東北・北海道の顧客をフォローする際の納期・運送費の面を勘案して今年8月に熊谷工場で製造設備一式を刷新。供給体制を強化した。2拠点から供給する体制は災害時などの安定供給にも貢献すると思う」

――中期的な需要環境と御社の戦略についてはいかがですか。

 「建設用の電線については東京五輪などもあり19年が需要のピークになると思う。だが建設業界では人手不足の影響から優先順位をつけながら工事を進めるため、20年以降に繰り延べられる物件も出てくると思う。その意味で五輪後すぐに電線需要が急減することはないだろう。情報通信関連は19年ごろから次世代通信網(5G)の投資が出始めるので、堅調な需要が見込まれる。直需については日本の製造業が全体として悪くない水準で推移し、工場の建て直しなどで底堅いニーズがあるはずだ」

 「その中で建設分野では顧客ニーズを把握しながら施工しやすさを追求した電線をラインアップする活動を進める。情報通信分野では技術の変化にキャッチアップしつつ、次世代通信に適した仕様のケーブルを供給していく。直需分野に関しては顧客と共に新しい製品を手掛けていくことも考える。現在売上高の構成比率は建設が6割で直需が3割、情報通信が1割程度。今後は建設分野での販売を減らすことなく、付加価値の高い直需と情報通信分野の比率を高めたい。20年度には建設分野とそのほかの比率を半々に持ってければと考えている」(古瀬 唯)

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