ゴロタ場の穴釣りと、ボクの“魔法の竹ざお”[少年釣り師育成ものがたり|14話]

釣りを通して子どもを教育する「釣育」をテーマに掲げ、釣り初心者の編集者とその子どもが、体当たりで釣りに親しんでいくセルフレポート「少年釣り師育成ものがたり」。今回は、すっかり釣果に見放された親子が、挽回を期して身近なターゲット「ハゼ」にチャレンジします。

子連れでは、釣れない釣りは避けましょう

このところ、僕と息子はすっかり釣果に見放され、悶々とした日々を過ごしておりました。
前回のレポートはこちら。

一度ならばまだしも、三度ボウズが続くとあっては、僕と息子の楽しい釣りも、まるで何かの苦行のよう。小さな釣り師の未来のためにも、次の釣りでは何かを釣らなきゃいけません。絶対に。

というわけで僕は、確実な釣りモノを探していたのです。

寝ぼけまなこで朝の通勤電車に揺られていると、高架下に広がる風景に目がとまりました。そこは江戸川河口付近。朝の川岸に釣り人たちの姿が点在しています。気になった僕は、出社するとすぐに釣りPLUSスタッフに質問。すると、江戸川放水路がハゼ釣りではちょっと知られたスポットだということがわかりました。この時期でもまずまずの釣果が見込めるそうです。

早めの判断

強風の影響でほとんど釣りにならない。

というわけで週末の午後、僕と息子は江戸川放水路へやって来ました。

ところが…、この日は午後になると、急に北風が強くなってきました。釣り具屋で購入したハゼ用の仕掛けは軽すぎて、すぐに岸に押し戻されてしまいます。周囲の釣り人もまったく釣れていないようです。

さよなら江戸川、また今度。今回はNC(ノー・コンテスト)。

“釣れない釣り”が息子のメンタルに与えるダメージについては、前回までのサヨリ釣りで十二分に学んだわけです。渋る息子を説得して、30分ほどで撤収します。

人工のゴロタ場

翌日は風もなく穏やかな晴天に恵まれました。
僕と息子がやって来たのは、困ったときのホームの海「検見川の浜」。でもこの日は、いつものように人でにぎわう南側突堤を避けて…

この日も大勢の釣り人でにぎわう南側突堤。

僕らは、誰も寄り付かない人工のゴロタ場を目指します。

本日の会場。波打ち際には藻なども生えていて、魚が集まってきそう。

ここで以前、誰かが何かを釣っていたのを思い出し、こっちの方がかえって釣れるんじゃないか…、などと思ったわけです。

仕掛けはシンプル、竿は現地調達

道具はこんな感じです。

仕掛けはハリス(袖鈎/7号と8号)と、ガン玉(3Bと4B)のみ。メソッドは西野弘章『世界一やさしい海釣り入門 最高においしい魚たちを最高に楽しく釣るための超入門書』(山と渓谷社)を参考にした。

竹ざおは岩のすき間に埋もれていたものを息子が調達しました。落ちている物に対するアンテナは、大人より子どもの方がずっと性能がいい、という事例を最近よく見せつけられます。

竹ざおの先端に直接ハリスを結び、針の近くにガン玉を挟み込みます。おそろしくシンプルな仕掛けですが、根がかりしたらつけ直せばいい。エサのアオイソメを針につけ、竹ざおを息子に渡します。

コケが生えた岩はヌルヌルして危ない。父は激しく滑って尻から下を水に浸け、その危険を身をもって示した。

干潮の時間帯で水位が低いため、釣りは波打ち際を探る格好になります。でも、手ごたえなく最初の30分ほどが経過してしまいました。竿の本数を増やそうかな、と僕が息子から離れたそのとき、ゴロタ場の穴の中に竹ざおを突っ込んだ息子が、雄たけびを上げます。

Every Little Thing He Does Is Magic

振り向くと、何の変哲もない岩間から魚が飛び出してきました。

1尾目は15センチほどのハゼ。

僕はすぐに新しいエサに付け替えて、息子に竹ざおを返します。息子がまた同じ穴に竹ざおを入れると…

「つれたー!」

途端に2尾目がかかります。やっぱりハゼです。

さらに続けて3尾目のハゼがかかると、いよいよ息子のソウルに火が付きます。お父さんはエサと仕掛けの交換役に徹します。

ハゼが入れ食いだ。

竹ざおを穴に入れては釣れる。そのパターンを何度繰り返したことでしょう。満ちてくる潮に合わせて後退しながら、釣れそうな穴を見分ける息子の“野性”に導かれ、彼の“魔法の竹ざお”はうなりを上げつづけたのです。

「写真はいい。さっさとエサを代えてくれ」と要求するうちのエース。

時計の針がお昼に近づくと、まるで“魔法”が解けたように、ピタッとアタリがなくなりました。この日の釣りはこれにて終了。釣ったハゼを数えてみると、全部で17尾ありました。

ぬるぬるだー。

夢のつづき

晩御飯はハゼの天ぷらです。柔らかい身はクセがなくておいしい。

釣りをした日は、よく食べます。

ゴロタ場の穴釣りは大成功。ひさびさの大漁を楽しんで、息子は終始ご機嫌でした。
ずーっと昔の人たちも、こうして魚を捕まえて、喜んでいたのかな。僕がそんなことをいうと、息子は何ともいえず、楽しそうに笑っています。

夜はいつもより早く布団に入って、すぐに寝付いた小さな釣り師。
今ごろはどんな夢を見ていることやら。

[文/釣りPLUS編集者〈I〉釣りPLUS

© 株式会社 内外出版社