【工場ルポ】〈芝浦グループ創業85年 インドネシア・バタム工場④〉「SAFTYBASE」安全衛生意識を徹底 「自販強化」にも挑戦

 芝浦インドネシアバタム(SIB)の事務所の正面入口には、インドネシアのジョコ・ウィドド現大統領ら国家要人の肖像を飾り、その下にはSIBのビジョンとミッションそして経営理念が掲示され、品質&環境ISO認証取得事業所認定書が掲げてある。

 デスクフロアの執務机は質のいい木目調だ。土地柄、ジャワ木材が使用されている。構内にある厚生棟には「祈祷場」が設置さ・溶接などの川下展開を図り、構内で複れているのも、インドネシアならではである。

「5S」ならぬ「5R」

 事務所に面した工場建屋(A棟)の壁には、芝浦グループ共通の理念であり経営スローガンである「SAFETY BASE(安全がすべての基盤)」を掲げてある。また、日本の「5S」(整理・整頓・清掃・清潔・躾)に準ずる「5R」(「RINGKAS」「RAPI」「RESIK」「RAWAT」「RAJIN」)も掲示。これは「5S」と同じ意味を持つ5つの現地単語だが、これを毎日必ず全員で唱和し、1人ひとりに安全衛生に対する意識を根づかせ、高めようとしている。

経営スローガンや日本の「5S」に準拠した「5R」を掲示

 この動機づけは、同じインドネシアに立地する建機向け厚板溶断加工拠点の「芝浦シヤリングインドネシア(SSI)」(西ジャワ州ブカシ県)でも同じだ。

 SSIは05年7月に会社設立し、翌06年2月から稼働を開始した。芝浦シヤリングの主要顧客の1社である日立建機のインドネシア現地工場向けを主体に部材・部品加工を手掛けている。

 操業から10年強を経たSSIの現在の概況は、敷地面積が6万平方メートル。構内には第1工場(6600平方メートル)、第2工場(7500平方メートル)、第3工場(7500平方メートル)の3棟とデリバリーエリア(3595平方メートル)および事務所棟(840平方メートル)がある。

 現在の従業員数は317人で、最大切断能力は月産7千トン規模。芝浦グループ最大拠点である。SIBと同様、品質&環境の両ISO認証を取得しており、徹底した生産管理と品質管理体制を整え、トレーサビリティ(生産履歴管理体制)にも万全を期す。

 スタート時のSSIは工場建屋1棟、従業員約200人で月産平均1500トンだった。2011年ごろの建機好況期には工場増設・設備増強と従業員の増員を図り、ピーク時は従業員600人弱で月産4500トンまで増えた。

 その後の建機低迷期では月産2千トンまで落ち込むが、能力縮小と人員スリム化などコスト合理化でしのぎ、足元の建機需要好転を背景に受注量は上向き傾向にある。収益も、最盛期レベルを回復した。

 この間、加工技術力や品質管理能力、コスト競争力はもちろん人材育成や安全管理体制なども身につけ「建機部品加工のトータル現場力とスキル・ノウハウ」に〝磨き〟をかけてきた。

日本製厚板の魅力PR

 もちろん、このバックボーンには芝浦シヤが日本で長年にわたり蓄積した建機向けQCD(品質管理・コスト競争・納期)対応力がベースにあり、グループ全体として掲げる「セーフティベース」の理念が〝根っこ〟にある。

 この「セーフティベース(SAFETY BASE)」とは『安全をすべてに優先させる事業基盤と企業風土』を指す。安全に対する高い意識は、シンガポールで開催された今回の「芝浦グループ創業85周年記念式典」の席上、芝浦シヤやSSI、SIBといったグループ会社の社長を務める大川伸幸氏からも、式典の参加したグループ全社員にトップメッセージされた(11月1日付本紙6面参照)。

 SSIでもSIBと同様、建機向け厚板一次加工(切板生産)から二次加工、機械加工合一貫体制を構築している。SSIの第3工場の脇には、将来の「第4工場建設予定地」が確保されており、今後の注文増に対する〝受け皿〟は用意してある。

 SIBでも今後は独自の販売網を構築しプロパー販売力の拡充にもチャレンジする。その一環で「自由貿易地域」という〝地の利〟を生かし、周辺国・地域に向けての拡販を模索するが、その際には「日本製の厚板の良さをアピールし、広く市場で認知されるよう力を入れたい」(大川社長)と強調する。

「夢構想」がカタチに

 今からざっと10年前の06年4月。芝浦グループ初の本格海外事業展開の皮切りとなったSSIの竣工記念式典が現地ジャカルタで開催された際、大川宏之芝浦グループ代表は「SSIは、創業75年(当時)を迎えるグループが総力を挙げ、この間に培った厚板加工技術に関する自信とノウハウを結集した『夢工場』であり次世代プロジェクトとも捉えている」と強調した。

 あれから10年を経る間で幾度の苦労と辛苦を重ねながらもその都度乗り越え、現在を迎えている。

SIB事務所棟

 大川宏之グループ代表が描いた「次世代夢工場」構想を、大川伸幸社長はじめ次世代リーダーたちが「カタチ」にし、今やSSI、SIBのインドネシア両拠点ともに将来の事業発展・拡張も視野に入れた成長戦略を描ける段階にきた。

 大川伸幸社長の言う「海外事業の〝要〟」(本紙10月30日付5面参照)としての2拠点一体運営基盤が構築できつつある現状の姿を目の当たりにできた芝浦ジャパンのスタッフにとっても今回のバタム訪問は意義深く、これを機に日本とインドネシアとが「顧客重視」「競争力強化」に向け相互理解・協力・連携を強めていくことが期待される。(終わり)(太田 一郎)

© 株式会社鉄鋼新聞社