【高炉の業績動向】〈新日鉄住金・榮敏治副社長に聞く〉収益力「まだまだ不十分」 価格がカギ、マージン改善狙う

――通期経常利益見通しは7割増益の3千億円で据え置きました。上期経常益が上振れの割には保守的に見えます。下期をどのようにみていますか?

 「気持ちの上で通期3千億円プラスアルファを目指したいのは変わらない。確かに(1)上期経常益が1576億円と従来見通しより上振れ(2)鋼材市況が想定より高めに推移(3)主原料価格が安定的に推移(4)グループ会社で収益改善の可能性がある―などプラス方向に振れる要素は多い。一方で、上期と下期では一過性の期間差が100億円あるほか、市況原料と呼ばれるマンガン、亜鉛、アルミ、油、スクラップなどの価格が上がっておりコストアップ要因がある。生産販売数量については、ほぼフル生産を計画しており、これ以上増やすのは難しい。価格がカギを握るが、マージン改善を行うことで収益の上乗せを図りたい」

新日鉄住金・榮副社長

――経常益3千億円とすれば、5兆6千億円とみている売上高に対する比率(ROS)は5・4%。前年度より大幅改善しますが、中期計画で掲げた10%には届きません。韓国ポスコなど東アジアのトップミルと比較しても劣位に。

 「確かにポスコは単独営業利益率が約10%となっており、追いついていない。今中期の目標としたROS10%はほぼ未達が確実となり、当社の収益力はまだまだ不十分だ。グループ会社群で2千億円を稼げる力が付いてきており、あとは本体で1千億円ぐらい収益を上乗せできれば、東アジアのトップレベルに伍していけると考えている」

――足元は新日鉄住金が得意とするエネルギー分野の低迷も響いています。

 「鋼管事業や厚板の一部など、エネルギー分野向けは前期が底だった。底は脱したが、あと数年は厳しい環境が続くとみている。石油価格でいえば1バレル=50ドル台が続くとの前提に立ち、一段とコストを下げることで収益改善を図る必要がある」

――海外事業の改善度合いについて。

 「前年度との比較では、日新製鋼の海外事業である米国のウィーリング・ニッシンやアセリノックスの持ち分法利益などがプラス。また原料価格上昇に伴い、原料投資会社の収益が拡大している」

 「ブラジルのウジミナス社も今年1~3月期に11四半期ぶりに最終黒字化し、7~9月も黒字が継続している。ブラジル経済がプラス成長に転じた外部環境好転に加え、コスト削減も功を奏している」

――上期と下期の比較では、下期に実力損益が大幅増益となる見込みです。マージン改善が進みますか?

 「在庫評価差など一過性要因を除く実力ベースの経常益は上期886億円(年率1700億円程度)、下期1624億円(同3200億円程度)。通期で2500億円程度とみている。昨年度の主原料価格の高騰分はお客様にほぼご理解いただいたが、今上期の市況原料価格の上昇については転嫁し切れていない。再生産可能なマージン確保に向けた5千円の値上げについては、店売り分野等で一部ご理解いただいているが道半ばである。ヒモ付きのお客様も含めて5千円のマージン改善の実現に向け、丁寧な説明を続けていく」

――非鉄セグメントの利益動向は。

 「新日鉄住金化学が、中国の地条鋼問題の影響を受けて電極がひっ迫化していることによるニードルコークス市況の上昇もあって、業績が回復しつつある。通期経常益110億円の見通しだ」

――最後に現在策定中の新中期計画(2018~20年度)。収益目標の水準をどう考えますか。

 「今中期で最大の目標としていたROS10%、ROE10%はいずれも未達がほぼ確実となっているが、目標レベルは変わらない」

――コスト削減は?今中期で目標とした1500億円を達成できる見込みです。

 「今年度に500億円やれれば、3年間で1500億円との目標を達成する。次の中期でも、もう一段のコスト削減が必要と考えており、さらに積み上げていきたい」

――他に問題意識やテーマなどは。

 「メガトレンドの変化を捉えて長期の視点で考えていく。貿易摩擦激化や通商問題の高まりを受け、アジア地域中心に現地生産を強化する必要があるとの認識を持っている。営業面では、我々の鋼材の価値を価格に反映させる売り方の構築が課題。付加価値をどう価格に反映できるかがポイントだ。また海外事業の中で赤字となっている事業につき、コスト削減を進めることなどで収益改善を図りたい」(一柳 朋紀)

© 株式会社鉄鋼新聞社