咲ききれなかったスピードスター藤村大介、2011年盗塁王のキャリアを回顧

巨人・藤村大介の成績一覧

初安打よりも初盗塁が先、2011年には28盗塁でタイトル獲得

 今季限りで引退した藤村大介は、名門熊本工業高校時代、甲子園に3度出場。俊足巧打の内野手として注目され、2007年の高校生ドラフトで、仙台育成高校の佐藤由規の抽選に外れた巨人から、外れ1位で指名され入団した。

 2008年から2010年までの3年間は、2軍で経験を積んだ。174センチ、74キロのスリムな体。飛び抜けたパワーは持たなかったが、抜群の俊足とミート力で定評を集めた。

 1年目は2軍で38試合に出場し、打率.311をマーク。2年目、3年目も.276、.282と安定した打撃成績を残している。3年間で成功したのが26盗塁だったのに対し、33盗塁死を記録するなど、走塁の技術は未熟だったが、2軍の首脳陣は失敗を恐れず走らせることで、経験を積ませようとした。

 1軍デビューは4年目の2011年5月10日、上毛新聞敷島球場での横浜戦だった。8回裏に寺内崇幸の代打で出場し、三塁ゴロに倒れた。5月13日の広島戦(マツダスタジアム)では、「8番・二塁」で初先発し、7回表に四球で出塁すると初盗塁。捕手は石原慶幸だった。初安打はその翌日で、盗塁の方が早かった。いかにも足で売り出した藤村らしい。

 藤村はこの年、打撃不振に陥って2軍落ちした脇谷亮太に代わって正二塁手となり、119試合に出場、28盗塁をマークした。

○2011年セ・リーグの盗塁5傑

1.藤村大介(巨)28
2.赤松真人(広)19
2.長野久義(巨)19
4.鈴木尚広(巨)18
4.荒木雅博(中)18

藤村の命運を分けた2012年日本シリーズ第4戦

 2010年に43盗塁で盗塁王に輝いた広島の梵英心が、6月に自打球を左ひざに受けて戦線離脱したこともあり、この年は盗塁王の水準は大きく下がった。20盗塁台でのタイトル獲得は、2002年に阪神の赤星憲広が26盗塁で獲得して以来だった。

 そんな状況も幸いし、藤村は1軍デビューの年に盗塁王を獲得した。規定打席には未達で打率も.222だったが、新しいスピードスターとして期待された。

 翌2012年も藤村は正二塁手として起用されたが、二塁を守ったのは100試合にとどまり、寺内崇幸、古城茂幸らと併用された。打率は.252と上昇したが盗塁数は14に減少。盗塁死が7度あり、成功率は低かった。盗塁成功率8割超の鈴木尚広に代表されるように、足のスペシャリストには高い盗塁成功率が求められる。その点でも藤村は未熟だった。それ以上に難があったのは、二塁守備だ。俊足ながら守備範囲は広いとは言えず、送球が不安定だとされた。

 この年、巨人はセ・リーグで優勝し、パ覇者の日本ハムと日本シリーズを戦った。第4戦はスコアレスのまま延長戦に突入。12回裏、日本ハムは小谷野栄一が安打で出塁したが、中島卓也のバントは投手西村健太朗に捕球され、小谷野は二塁で封殺された。走者が入れ替わり、一塁に中島。ここで大野奨太が再度投手前にバントを決めた。西村は二塁は間に合わないと一塁に送球するが、これをベースカバーに入った藤村大介が落球。一死一三塁のピンチに転じ、ここで飯山裕志にサヨナラ二塁打を浴び、巨人は敗れる。対戦成績は2勝2敗になった。

 大舞台での失策は、藤村にとって致命傷となった。その後、巨人が連勝して日本一になったが、原辰徳監督は第5戦以降は藤村を起用せず。そして翌年以降も、藤村の1軍出場機会は激減した。

 2016年に5試合出場したのを最後に1軍出場はなし。2軍では2013年に30盗塁を記録するなど韋駄天ぶりは健在だったが、1軍昇格のチャンスは巡ってこなかった。

○藤村の通算成績
1軍 294試合689打数156安打0本塁打27打点 49盗塁15盗塁死 打率.226
2軍 556試合1539打数419安打4本塁打116打点 82盗塁55盗塁死 打率.272

盗塁王に輝きながら、規定打席に1度も到達しなかった選手とは…

 1軍デビューから7シーズンで規定打席には一度も到達しなかった。実は野球史には1度だけ盗塁王を取ったが、1度も規定打席に達することなく球界を去った選手が藤村の前に2人いる。

○山本公士(阪急)1966年32盗塁で盗塁王 
通算645試合325打数69安打1本塁打17打点 103盗塁41盗塁死 打率.212
○青木実(ヤクルト)1981年34盗塁で盗塁王
通算558試合577打数132安打2本塁打26打点79盗塁32盗塁死 打率.229

 いずれも打撃面でのパワーに欠け、レギュラーに定着しなかった。また俊足ではあるが盗塁成功率が低かったことも共通している。

 藤村は引退後は球団職員になるという。短い期間だがスピードスターとして輝いた男は、裏方として第2のスタートを切ることとなった。

(Full-Count編集部)

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