北朝鮮当局が「言葉狩り」に躍起…韓流ドラマの蔓延を恐れ

北朝鮮は今年に入り、核実験と弾道ミサイル発射を繰り返しているが、経済制裁により暮らし向きが悪くなった北朝鮮の人びとは関心を持とうとしない。彼らの関心事は、生き抜くためのカネ儲けと、憂さ晴らしの娯楽だ。

中でも、韓流ドラマと映画、K-POPは圧倒的人気だ。「チャンマダン(市場)世代」と呼ばれる北朝鮮の若者は、金正恩党委員長ではなく、韓流に未来への期待を見出すほどだという。

その影響を恐れた当局は、「人民の意識を蝕む麻薬と同じ」「そんなものを見るのは、社会主義の砦であるわが国の抹殺に加担する逆賊行為」などとし、取り締まりをさらに強化している。

デイリーNKの対北朝鮮情報筋によると、保衛部(秘密警察)の要員は、検問の際に金属探知機を持ち歩くようになった。検問の際に、韓流コンテンツが保存されたUSBメモリやSDカードを発見するためだ。非常に小さなSDカードは、靴の中、足の指の間に隠せばほぼ見つけられないが、金属探知機を当てればすぐにわかるというわけだ。

韓流取り締まりの強化と厳罰化により、教化所(刑務所)送りにされる事例が多くなっている。ある青年は、韓流ドラマを見ていたところを踏み込まれ摘発された。以前にも摘発され教化所送りになった経験を持つこの青年は、「あんなところに行くのなら、死んだほうがマシだ」と言って、自ら命を絶ったという。

このような事例は、枚挙に暇がない。

しかし過酷な処罰が待ち受けているのに、韓流を見る人が後を絶たないのは、一度見たら「やめられない、止まらない」中毒にかかってしまうからだと情報筋は説明する。

韓流の流行は、北朝鮮に多くの影響を与えている。平壌のデイリーNK内部情報筋が例に挙げたのは言葉だ。

朝鮮半島で、昔から言葉のきれいな地方として挙げられてきたのがソウルと平壌だ。双方とも非常に似通った高低アクセントを持つ言葉だったが、ソウルの言葉は1980年代から、京畿道南部や忠清道の方言の影響を受けて無アクセント化し、ソフトになったと言われている。

そして最近、韓流を通じてそれを知った平壌の若者が、ドラマの登場人物たちの言葉遣いやアクセントを真似るようになった。

このような状況を受けて当局は「わが国の言葉に、外国語や非標準語を混ぜて使っては絶対にいけない」というテーマで講演会を行い、若者に参加を強いているが、そんなものが効果を生むはずもない。

そもそも朝鮮労働党や行政機関の幹部が、ソウルの言葉で優しく囁く韓国製の電化製品に魅了されているというのに、示しのつきようがない。

取り締まる側の保衛員、保安員(警察官)も韓流ドラマ好きで、没収したソフトを密かに見ているのは公然の秘密だ。

脱北タレントとして韓国で活躍するユ・ヒョンジュさんは、あるバラエティ番組で次のようなエピソードを紹介している。

当局は「資本主義に汚染されたソウルの言葉を使う者がいれば通報せよ」と取り締まりキャンペーンを繰り広げた。保衛指導員(秘密警察)はパトロール中に、男女カップルがソウルの言葉でお喋りしているのを聞きつけた。すぐさま駆け寄り「なんでソウルの言葉を使うのか!」と咎めたが、カップルはしらを切った。

保衛指導員は2人をさらに責め立てたが、冷静さを失ったのか、思わず口からソウルの言葉が飛び出してしまった。実は彼も無類の韓流ドラマ好きだったのだ。「保衛指導員同志はなぜソウルの言葉を使うのか」とカップルから逆に責められた彼は「今日はこれぐらいで見逃してやる」とバツが悪そうに去っていった。

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