【ニホンケミカルと石原商事】〈エネ・インフラ用厚板販売で協業〉緊急手配需要、ニッチ市場でシナジー発揮 顧客メリット創出し「存在感」

 石油タンク用をはじめとするエネルギー・プラント分野およびインフラライン用途向け鋼板には「SS400」や「SM400B・C」「SPV235」および「SPV490Q」など種々の規格材があり、石原商事はこれら規格鋼板を豊富に常備する(www.ishiharashouji.jp参照)。その保有鋼種数および在庫量は、専業としては全国でも指折りだ。

一般流通しない規格材

 これらは、消防法や日本石油学会などの規定により、一般に市中で流通している鋼板とは(1)板厚公差(2)寸法精度(3)各種提出書類―などスペックが異なる。

ニホンケミカルのショット&プライマー一貫ライン

 通常は、ユーザーの協定仕様書に基づき物件ごとにそのつど製鉄メーカーにロール発注する。国内高炉品が市場のほぼ100%を占有するとされる。

 石油元売りや石油化学、石油備蓄企業および各種プラント保有会社は、貯蔵タンクを一定期間内に「開放点検」する。

 開放点検とは「一定期間内にタンク内の貯蔵品を抜き、内部の健全性を確認」する検査。底板・側板・天板の腐食・減厚をチェックし、必要に応じて補修する。部分的な腐食や減厚の場合も鋼板ごと交換するケースが多い。

 タンクやプラントの補修・メンテナンス時は「トータルコスト・プラントオペレーション」(総コストを最大限に抑える)の観点から「短工期」「工期厳守」が必須だ。

 過去の経験則から「腐食・減厚」率をある程度予測・計算し、補修・メンテ計画を立てるが、地盤の不等沈下や貯蔵品の品質劣化具合など不確定要素も多く、実際に開放点検による現地調査でないと適正な必要鋼板の必要量が確定しないのが実態のようだ。

 このため不測の事態を想定し、最低必要量よりも「多め」に事前手配するケースが多いが、その際、あとで生じる余剰材は、機会不適や長期保管時の不良化などによって破棄されることも少なくないらしい。

「急な市中手配ニーズ網羅したい」

 メンテナンスする側は当然、余材リスクを軽減・皆無にしたいことから(1)最低限必要な量をロール発注し、不足分については市中手配(2)タンク開放後に必要なサイズ・数量を市中発注―する手立てを検討するわけで、これらニーズに対して石原商事の常備在庫が「武器」となる。

 これら分野におけるユーザー各社の、市中における「緊急手配需要」は、1件ごとには少量であっても「潜在的には一定ボリュームが見込まれるし、今後も増える傾向にある」と石原商事の石原直司専務は推測している。

 これまでも同社は、石油タンク用鋼板だけを捉えても、年間でコンスタントに1千トン強の販売実績があるが、今後さらに「メーカーロール以外の市中手配ニーズをフォローしていきたい」(石原専務)と考えている。

 従来から、同社が受注した鋼板のショット&プライマー塗装(ジンク処理)は、ニホンケミカルに委託していた。ニホンケミカルは、首都圏では浦安第2鉄鋼団地内にショット一貫ラインを2拠点有するほか函館、大阪、広島にも一貫ラインを持つ専業大手。その技術力や品質管理体制、迅速な対応力の高さには定評があり、全国各拠点で高規格材のプライマー実績を重ねている(www.nihonchemical.co.jp)。

材料~ショット~配送をワンストップで

 そこで両社間では、従来の取引関係をもう一段ステップアップし、業務提携による材料受注からプライマーショットそして客先配送までの流れを「ワンストップ化」することで顧客メリットを創出しつつ、お互いにとっても営業強化・受注増による「シェア拡大」という、いわばWin―Winにつなげようとの戦略で一致した。

 両社をクラウド上のシステム(オープンiSAT)で共有し、リアルタイム情報授受体制を構築してユーザーに対してスピーディかつ的確な発信や受け答えができるようにする。

 システムでは、石原商事が長年の調査・研究によって独自に整備した「鋼板(素材)に関する各種データや用途の詳細解説」など情報も随時アップデートする予定で、この分野におけるユーザー・関係者の疑問や質問にも適宜解答できるよう充実させていくという。

 ニッチではあるが、需要としての確実性ある市場での存在価値を高め、絶対的な競争優位性を、それぞれが持つ「強み」と「特異性」をコラボレーション(協業)し、1+1を3にも5にも拡げようとする今回の取り組みは、鋼材加工流通業界にとって新たな価値創造のヒントとなる。(太田 一郎)

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