【日立金属の事業戦略 カンパニープレジデントに聞く(1)】〈磁性材料・赤田良治執行役〉熊谷に磁石の革新的ライン 国内リサイクル体制を確立

――当面の需給見通しから伺いたい。

 「自動車用電装部品や産業機器関連が好調で、生産が引き合いに追い付かない状況にある。ネオジム磁石、フェライト磁石とも既存ラインを部分的に増強しながら供給確保に努めているが、タイトな需給状況が続く見通しだ」

――25年度にカンパニーの連結売上高を16年度比倍増の2千億円に拡大する計画だ。

日立金属磁性材料・赤田執行役

 「自動車のxEV化の急加速に、自動車EPS(電動パワステ)、FA・ロボット関連、エコ家電、風力発電などが加わり、ネオジム磁石需要は高成長が見込まれる。今年度に操業開始した中国合弁、来春稼働の熊谷の革新的生産ラインに加え、その後も日中で能力増強を行い、ネオジム磁石の生産能力を16年度比2倍に拡大する」

 「フェライト磁石は自動車の電装化の進展で年率5%程度伸びると見ている。フェライト磁石の革新的生産ラインも熊谷で来春稼働する。その後も世界5拠点で最適生産体制を組んでいく」

――売上高に占める自動車比率の見通しは。

 「カンパニー全体では約65%で、中国をはじめとする海外販売がけん引し、25年度には10%程度増えるだろう。フェライト磁石に限れば自動車比率はすでに80%を超えている」

――中国のネオジム磁石合弁の現状は。

 「日系のお客様を中心に引き合いをいただき、サンプル出荷している。量産受注も見えてきている。ローカル系ユーザーの開拓はまだ緒についたばかりだ。24年度には受注ベースで2千トンを目指す。原材料調達から製造、販売までの一貫体制の強みを生かしていく」

――熊谷の革新的生産ラインはどのようなラインになるのか。

 「ネオジム磁石は既存ラインの延長線上にはない設備であり、自動車向けの大量生産に適したラインにする。他のライン構成は大きく変わらないが、ビッグデータを品質や前工程の改善に結び付ける経験も積んでいく」

 「フェライト磁石の新ラインは、小型・薄物を今まで以上に造れるようになるし、同じ小型・薄物なら効率よく造れるようになる。フェライト磁石は重量ではさほど伸びていないように見えるが、数の伸びは相当大きい。新ラインは検査やトレーサビリティの維持・管理も効率的に行える設備にする」

――熊谷では来春、GRIT(グローバル技術革新センター)の建屋が完成し、磁性材料研究所が移転して同床化。磁性材料では工場、研究の一体化も進む。

 「熊谷でマザー拠点としての機能を確立する。我々の潜在ポテンシャルをお客様にお見せして、なおかつ生産ラインも見ていただける。開発や事業戦略に関わるロードマップをお客様と一緒に作っていく時代になったと感じているし、恐らく日系の自動車メーカーさんは国内で最先端の研究開発を行われ、その成果を海外に展開する流れになる。その流れに乗せていけることが理想的なあり方だ」

 「熊谷の革新的生産ラインで築いた技術は他拠点に展開していく。フェライト磁石では、自動車関係のお客様を中心に世界同一品質を提供していく」

――次世代、次々世代の磁石開発は。

 「ネオジム磁石の次の磁石の開発は長年にわたり取り組んでいる。GRITとの連携でさらに進むだろう。既成概念の延長線上にはない磁石であり、相当な年数をかけてでも進めて行く。フェライト磁石は世界最高の磁気特性を発揮する15材(NMF―15)を商品化している。この延長線上でより高性能な製品を開発する。ネオジム焼結磁石とフェライト磁石の中間にネオジムボンド磁石がある。当社はボンド磁石にも力を入れているが、この一部をフェライト磁石に置き換えることもあり得るだろう」

――マテリアルフローの最適化も今中期の課題に挙げている。

 「18年度に着工する方針で、国内における磁石合金の内製やリサイクル体制の確立を検討している。完全なリサイクル体制を整えると巨額の設備投資になる。どうマネジメントするのが最も望ましいか、詰めの検討を行っている段階だ」

――情報部品事業についても伺いたい。

 「次世代パワー半導体としてSiC半導体の採用が進むと予想されており、高い熱伝導率と機械的特性を両立した高熱伝導窒化ケイ素基板が大きく伸ばせる。山崎工場ではロームからパワー半導体ウエハーの製造プロセスの一部(研磨工程)を受託することで協議を進めている」(谷山 恵三)

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