「福岡発 売り子名鑑」15歳デビューの6年目、ベテランが明かす売り子界の奥深さ

キリンビールの「かずは」さん【写真:福谷佑介】

高校1年生で売り子デビュー、キリンビールの最古参

 球場の新たなエンターテインメントとなっている「売り子」。美女どころといわれる福岡のヤフオクドームで働くアサヒビール、キリンビールの両メーカーの売り子を不定期連載で紹介している「福岡発 売り子名鑑」の第32回をお届けする。日本シリーズも終わり、ついにシーズンオフとなった今季。売り子に会えるのは、11月26日に行われる「ファンフェスティバル」が最後となる。

 第32回はキリンビールの「かずは」さん、だ。

 21歳になったばかりの「かずは」さん。福岡市内の大学に通い、メディア関係を学ぶ大学3年生だ。まだ21歳だが、売り子の世界では、もはや大ベテランの域。売り子歴はなんと6年になり、キリンビールの売り子では在籍期間は最長となっている。

 2012年、高校1年生で売り子デビューを果たした彼女。小学、中学、高校が同じだった先輩からの誘いで、売り子界に身を投じた。「もともと野球は好きだったので、先輩に誘われて始めました」。当時は、もちろん最年少。「始めた時は15歳だったので、年齢を聞かれると、お客様にも引かれていました」という。

 始めた当初は「キツすぎて、ずっと辞めようと思っていました。学校の後にドームに行って、次の日の朝また学校に行って。最初は売れるわけでもなかったので、精神的にキツかったです」。そんな中で実際には辞めることなく、仕事を続けられたのは「小久保選手のファンで。始めた年が小久保選手の現役最後の年でした。小久保選手が見られるから、というので続けられていました」という理由からだった。気づけば先輩になり、キャリアは6年目になっていた。

 6年も売り子の世界にいれば、酸いも甘いも知ることになる。ベテランだからこそ分かる売り子業のコツは「まずは出勤すること」だという。「自分たちがお客様のことを覚えることはもちろんですが、お客様に覚えてもらえるまで出勤することが大事です」と、まずは存在をファンに認識してもらうことが大前提。「私は年間シートのお客様とか、1度でも見たことあるお客様には必ず挨拶するようにしています。その人が買わなくても、ビール飲めなくても、です」という徹底ぶりだ。

7年目の来季がラストイヤー「大学を卒業できなくても、売り子は卒業するつもり(笑)」

 それだけではない。ドーム全体の流れを見極める視野と判断力も必要だという。

「私は人のいないところ、売り子がいないエリアにいくようにしています。自分が売れていない時は、スタンドへの入り口で止まって見回して、人がいないところを確認します。あとは他の売り子さんの動きも把握します。その日その日で、流れを掴んでいる子というのがあるんです。タイミングによって売れない日というのがあって、そういう時はタイミングを変えないといけません。流れを持っている子はそのタイミングが合っている子なので、その子に合わせてみることもやります」

 決して甘い世界ではなく、奥が深い。

 三塁側内野席と、バックネット裏で働く「かずは」さん。好きな男性のタイプは「例えば、食事に行って、店員さんが食器を下げる際に『ありがとうございます』と一言言ったり、片付けやすいようしたり、そういうさりげない気遣いのできる人にキュンとします」という。来年には大学4年生となるため「売り子は来年がラストですね。もし大学を卒業できなくても、売り子は卒業するつもりです」と笑う。スタンドでは常時赤い靴を履いており、それが目印だ。

「野球の話でも、そうでなくてもいいので、ぜひたくさん話してほしいです。多分誰よりも長くお客さんと話している売り子だと思います。売っている時間を削ってでも、お客様とお話したいです。野球、ビール以外でもヤフオクドームで楽しんでいただきたいですし、その楽しみの1つになれたらと思っています」

(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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