油症の苦しみ今なお 県立大看護学生 五島で被害者に聞き取り

 県立大看護栄養学部の4年生6人が今夏、同大の「しまの健康実習」で、五島市に暮らすカネミ油症被害者に生活史全般を聞き取った。結婚、子育て、老い-。誰もが経験しうる場面の中で、被害者はそれぞれ壮絶な健康被害と生きづらさを抱え、後悔や葛藤は今なお続いていた。「決して過去の出来事ではない」。看護師や保健師の卵たちは、そう気付いた。

 カネミ油症は、1968年に西日本一帯で発覚した食中毒事件。本県では五島市に被害者が多い。6人は、離島の健康問題を学ぶ看護学科の同実習で同市担当になり、新上五島町出身のリーダー、柏諭実さん(22)が中学時代に油症被害者の講話を聞いたことがあったため、テーマとして提案した。

 5、6月の計7日間、島に泊まり込み、50~80代の10人(女性7人、男性3人)に聞き取り、健康被害が就職や結婚、出産などの実現にどんな影響を与えたかや、その時々の思いを尋ねた。「『壮絶な体験』という言葉だけでは言い表せない」。学生たちは被害者の話に強い衝撃を受けた。

 カネミ倉庫(北九州市)製の米ぬか油を食べた当時妊娠していたという女性。「私の子もねえ...」。話の途中でおもむろに、誕生したわが子が生後数カ月で油症の影響によって亡くなったことを語ってくれた。「かわいそうと思うばかりで。丈夫に生んであげられなかった」。後悔の念を涙ながらに語った。学生たちはその姿に、油症問題の根深さを感じた。

 それぞれ聞き取った話は世代に分け、健康問題や生活への影響、思いをまとめた。例えば、青年期(13~17歳)に下痢や倦怠(けんたい)感で「進学、就職活動に支障があった」。壮年初期(18~30歳)には皮膚症状で容貌が変わり、次世代影響の不安も相まって「結婚できない、(あるいは)婚約を破棄される」人がいた。

 聞き取りを通して、働くことが難しくなったり、結婚や妊娠、出産を諦めたりするなど、人生の節目に大きな困難があったことが分かった。

 学生の長友夏海さん(22)は「被害者は、症状と折り合いをつけて暮らしている。生活の中に油症の苦しみがあるという視点が必要だと思う」と語る。

 学生たちは、差別や偏見に苦しんだ被害者が「知ってほしいけど、知られたくない」という葛藤を抱えていることにも気付いた。保健師を目指す柏さんは「『看護学生だから伝えたい』と話してくれた人もいた。これから医療職に就く人間として、いろんな分野で正しい知識を身に付け、目の前の患者に対し、寄り添う気持ちを誠実に伝えていきたい」と決意を語った。

(2017年10月25日掲載)

実習について振り返る柏さん(右から3人目)や長友さん(右から2人目)ら=長崎市内

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