お相撲さん

 生徒に対する教師の体罰、部活動の先輩が後輩に振るう暴力、親による子の虐待-相手の「反撃」を心配することなく行使される暴力は、とりわけ陰湿で卑劣だ▲もちろん、暴力は基本的にいけない。報復の恐れや不安やその覚悟があったところで暴力は正当化されないし、反撃を奨励する意図もない。そこは最初にことわっておかねばならない▲異国の国技に身体一つで飛び込み、頂点にまで昇り詰めた英雄が同郷の平幕力士に振るった-とされる暴力にも同種の暗さがある。だから、進退問題への発展もあり得る、と最初に感じた横綱の暴力事件。ところが、話はそう単純ではないらしい▲平幕力士の負傷の程度を巡って情報がさまざまに交錯している。ビール瓶で殴った、いやカラオケの選曲用のリモコンで、と暴行の様子の証言も変遷している。騒ぎの背景には相撲協会内部の権力争いや親方間の確執も語られる▲「お相撲さん」の世界である。「お」と「さん」に挟まれて呼ばれる職業、他に思いついたのは「お医者さん」と「お巡りさん」だけだ。優しく親しみやすくて、頼もしい存在で…三者に共通するのは人々のそんな願いと親近感▲事態は収束の気配すら見えない。世の中の期待を何重にも裏切り続けている自覚はあるだろうか、お相撲さんたち。(智)

© 株式会社長崎新聞社