【日立金属の事業戦略 カンパニープレジデントに聞く(4)】〈特殊鋼・佐藤光司執行役〉航空機材料、国内一貫生産体制構築へ 工具鋼、グローバルな拡販強化

――製品別に展望を伺いたい。航空機・エネルギー材料事業では日立金属MMCスーパーアロイ(以下、HMSA)を来春合併する。

 「航空機エンジン部材は非常にうまく回っている。神戸製鋼所などと共同出資する日本エアロフォージ、当社安来工場、HMSAの設備の組み合わせで将来展望が描けている。新たな設備投資も計画しており、意思決定のスピードを高めるのが合併の狙いだ」

 「桶川は新規案件の多さに苦労しつつ前向きに挑戦している。機械加工では日立金属工具鋼の筑西工場で今下期に大型加工機7台を導入するなど手を打っているが、中型タービンディスク材などに適した大型鍛造設備の増強も必要になる。次期中期(19~21年度)で戦力化したい。これで設備体制はほぼそろうが、老朽更新や外注対応を含む機械加工の拡充も考えていく」

日立金属特殊鋼・佐藤執行役

 「日本エアロフォージのフル生産化を目指すとともに、グローバル技術革新センター(GRIT)や物質・材料研究機構(NIMS)との連携による合金開発も進めて溶解認定を取得し、原料リサイクルを含めた国内一貫体制を構築していく。その上で、航空機・エネルギー材料事業で25年度売上高600億円への拡大を目指す」

――工具鋼のグローバル拡販に向けた設備体制の増強は。

 「安来は上工程がフル操業でシフトアップを進めているが引き合いに追い付かない状況だ。熱処理変寸や経年変寸の抑制、耐摩耗性の向上など高特性を発揮する冷間工具鋼『SLD―i』をグローバル拡販の切り札に位置付けているが、歩留りの課題もあるので、今下期に完成形にして来年度から本格的に拡販する」

 「来春立ち上げの1万トン自由鍛造プレスを活用して、ダイカスト金型の大型化にも対応する熱間工具鋼の新鋼種も量産化する。プレスの効果は当社が特に強みとする熱間工具鋼全般に適用できる」

 「超ハイテンやホットスタンプ成形に適した表面処理技術の開発も進んでおり、松江に続く真岡の工場も立ち上げた。台湾、韓国工場を含めて多様な情報を共有してソリューション提案力を高める」

――電子材・電池材ではSHカッパープロダクツの本社工場に来下期稼働でクラッド工程の新ラインを導入する。

 「長さ300メートル級の一貫ラインで高品質のクラッド材を高効率で生産する。電子材・電池材はxEV需要拡大や車載用の成長に加えてディスプレイ関連も大きく伸ばせる」

――有機EL(OLED)関連製品の背面板向けで安来の合金帯鋼の増産投資も決めた。

 「リードフレーム材が高水準で、背面板も増えると冷延能力が足りなくなる。20年度までに80億円を投じて冷延関係を増強する。今のようにクラッド材生産がタイトな時は、安来でもクラッド材の仕上げ圧延を行っている。帯鋼製品全体のBCPを含めて設備体制をしっかり整え、受注拡大を図る」

――軟磁性材料・部材でもxEV需要への期待は大きい。

 「ナノ結晶軟磁性材料『ファインメット』の引き合いは旺盛で、増産対応している。xEV需要だけではないが、アモルファス金属、メタルパウダーなど軟磁性材料・部材で年1千億円を目指していく」

――一方で、特殊鋼では自動車エンジン関連の主力製品が多い。

 「xEV化が刺激になりエンジン効率向上の開発が加速し、高強度・高耐熱材料などに対するニーズが高まっている。持続的成長がより続くように素材の立場で貢献していく」

 「日立メタルプレシジョン(HMP)がターボ車用ホイールの増産投資を行っているし、ピストンリング材やCVTベルト材も増産対応している。HMPのタービンホイールの生産能力は、20年度には5割増の月160万個に拡大する。ターボ向けでは素形材カンパニーの『ハーキュナイト』もあり、全社一丸でお客様に貢献したい」

――3Dプリンタ関係の開発状況も伺いたい。

 「単なる造形ではなく、3D部材に特化した要求品質を見極めて、適合するワイヤ、粉末を開発する段階に変わってきた。GRITがワイヤを用いて電子ビーム積層できる大型の3Dプリンタを導入する。合金組成や加工方法を含めて開発を進める。3Dプリンタを含む粉末、ワイヤ応用製品の開発に当たる専門部署も設置している」

――日立金属若松で熱延用鋳造ロールや構造用鋳鋼品の増産も決めた。

 「若松のシリンダ部門はFA化が進んでおり、全社のモデル工場になり得る。今回の増産投資の中でロール、構造用鋳鋼品でもFA化を進める」(谷山 恵三)(終わり)

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