F3ワールドカップ:SJMセオドールレーシング・バイ・プレマ 2017年マカオグランプリ レースレポート

両手から溢れた栄冠。惜敗のセオドールレーシング  マキシミリアンの5位が最上位に留まる

2017年11月16~19日
マカオ/ギアサーキット

“FIA Formula3 World Cup”のタイトルが懸けられ、ステータスがさらに上がったマカオグランプリF3レース。今年度からエントリー方式も変更され、それまで1チーム/3台となっていたが今年から1チーム/5台までとなった。

 ユーロF3選手権で4台をエントリーしているプレマ/セオドールは例年、ドライバーのセレクションに頭を抱えていたが今年はその心配も無く、ユーロF3そのままの体制で臨むことになった。

 ユーロF3からの唯一の変更点は今年もグランドリスボアホテルを経営するSJM(SJM Holdings Limited / Sociedade de Jogos de Macau, S.A)がチームのタイトルスポンサーとなり、栄光のエントラント名、“SJMセオドールレーシング・バイ・プレマ”という、年に一度のプレミアムネームに変更したことだ。

 レースフォーマットは木曜午前がFP1、午後がQ1。金曜日午前がFP2、午後にQ2でグリッドを確定し、土曜日の予選レース。そしてその結果で日曜日のグランプリのスターティンググリッドを決める。

木曜日(11/16) FP1/Q1

 FP1はFDA(Ferrari Driver’s Academy)ドライバー #8 周冠宇が6位でチームトップ。このマカオグランプリに臨む少し前にフェラーリJr.入りがアナウンスされたばかりの#7 カラム・アイロットが7番手、マカオ初挑戦となる#10 ミック・シューマッハは9番手と好位置につけた。
 
 #9 マキシミリアン・ギュンターはマシンのトラブルで殆ど走れず、19番手と最後尾に近かった。

 午後のQ1ではセットアップの変更が大きく効いてマキシミリアンが3番手、カラムが6番手、9番手に周、そしてミックが12番手と好位置につけた。

金曜日(11/17) FP2/Q2

 FP2。カラムが4番手、マキシミリアンが5番手、9番手に周、そしてコースの慣熟に努めるミックが14番手のタイムをマーク。

 そして午後のQ2。カラムは3番手、マキシミリアンが4番手で二台揃って二列目を確保。大躍進したのはマカオ初参戦のミック。7番手のタイムをマークし、関係者から感嘆の声が上がった。周は10番手に付け、4台がトップテンでクォリファイを果たした。

マキシミリアン・ギュンター 2017年F3マカオグランプリ

土曜日 予選レース(11/18) 10Laps

 今にも泣き出しそうな天候の下、予選レースの火蓋は切られた。ポールの#15 ジョエル・エリクソン(motopark)、 2番手 今年度のユーロF3チャンピオン #1 ランド・ノリス(カーリン)の牙城を崩すべく、カラムは絶妙なスタートを決めてノリスを交わし2番手に浮上。ターゲットをエリクソンに絞りチャンスを伺う。
 
 そして7周目のリスボアのブレーキングでオーバーテイクを決めトップに立った。そのまま後続を引き離しフィニッシュ。栄光のグランプリのポールポジションを手にした。
 
 マキシミリアンは序盤、3番手につけていたもののレース中盤域でタイヤのグリップ不足に悩まされた。猛追するFIA F2 ドライバー #19 セルジオ・セッテカマラ(モトパーク)にその座を奪われて4位でフィニッシュ。
 
 周はスタート良く何台かをオーバーテイクしたものの、山側で前車に近付き過ぎてしまいハードブレーキで追突を防いだ瞬間、後続の車輛に連続して抜かれてしまい結局予選順位と同じ10位でフィニッシュ。
 
 7番手スタートのミックはスタート良く果敢に前車にアタックを仕掛け場内を沸かせた。そして4周目、リスキーなリスボアで #3 フェルディナンド・ハプスブルク(カーリン)にブレーキング勝負に出た。しかしこれは失敗。大きく順位を落とし20位完走に留まった。

日曜日 第64回マカオグランプリ 決勝レース(11/19) 15Laps

 朝からの雨でサポートレースは大荒れだった。しかし15時30分スタートのマカオグランプリ FIA F3ワールドカップの頃には雨は上がり、ぐずついた天候ながら路面はドライコンディションへと回復していった。

 栄光のポールポジションはFDAドライバー カラム・アイロット。マキシミリアンが4番手で2列目。周が10番手、ミックは20番手と後方からのスタートだが、SCが入らない年がないのがこのグランプリレース。速さとクレバーさが両立しないと結果を残せないのがマカオグランプリなのである。

 各車フォーメーションラップを終えてグリッドに整列。そしてレッドライトが消灯してグランプリ F3ワールドカップの火蓋は切って落とされた。

 カラムはスタートを決めたものの、やや車速が鈍りマンダリンコーナーでエリクソンに交わされて2位へドロップ。しかし引き離される事はなくトップに喰らいつく。
 
 2周目に入りカラムはメインストレートでエリクソンのスリップに入りオーバーテイクを仕掛けるが、その少し前メルコヘアピン先で #17 佐藤万璃音(モトパーク)が単独クラッシュ。
 
 リスボア進入のブレーキング競争で勝負に出たカラムだったが、このクラッシュが原因によるFCYとなってしまい抜く事ができず、ここから次第にカラムのリズムが狂い始める。
 
 3周目にリスタート。しかしタイミングが悪く、リスボアでカラムを含む4台が複雑にクロスし、カラムは2位を維持したものの大きく遅れ、逆にトップのエリクソンには突然のトラブルが襲いかかりリスボアでストップ。
 
 この時にエリクソンがカラムのタイヤにタッチし、カラムはタイヤトラブルを抱えることとなり、この混乱を冷静に見ていたセッテ・カマラがトップに立つという番狂わせが起こる。
 
 さらになんとか動き出したエリクソンだったがサンフランシスコヒルの上り坂の途中でストップ。これで再度FCY、その後セーフティーカー導入へと切り替わる。
 
 この間にカラムはピットイン。タイヤ交換をし最後尾まで落ち、勝負圏外へと追いやられてしまった。

 この混乱でマキシミリアンは2位に上がり、優勝を狙うポジションへと浮上。グリーンフラッグを今か今かと待ち構える。
 
 このSC中にミックがピットイン。ほぼ最後尾から16番手まで上がったところだったがギヤボックスに問題を抱えピットイン。一度はマシンを離れたが再びコクピットに戻りマシンのリペアを待つ。
 
 そして全体が8周目に入ったところでピットアウト。ミックにとって今年のマカオは終わってしまったが、来年へのシュミレーションへと切り替えて完走を目指し、大きな拍手に見送られてコースに戻る。
 
 それに応えるかの様にスピードの皇帝の血を引くこの若者はファステストラップを叩き出し、その期待にしっかりと応えた。

周冠宇 2017年F3マカオグランプリ

 6周目が終わったところでSCがピットイン。レース再開となった。優勝のふた文字が明確に見えてきたマキシミリアンは格上のF2ドライバー、セッテ・カマラに果敢に仕掛け、何度もリスボアのブレーキング勝負にでる。
 
 しかしセッテ・カマラも絶妙なライン取りでマキシミリアンに付け入る隙を与えない。とはいえセッテ・カマラ自身のラップタイムは決して速くはなく、緊張感に包まれた膠着状態が続く。

 10周目終了時点で各車とも1秒と離れていない状態のなか、最初に動いたのはハプスブルク。11周目のメインストレートでマキシミリアンのスリップに入り、マンダリンコーナーで一気にその差を詰め、今シーズン絶好調のVWパワーを余すことなく使い切りマキシミリアンをオーバーテイク。
 
 さらにマキシミリアンにノリスが接近。VWパワーでマンダリン後のストレートでスリップを使い、リスボアのブレーキングでオーバーテイクを仕掛けるがマキシミリアンもギリギリまでブレーキングを遅らせてこれをディフェンス。何とかポジションをキープする。
 
 そこへ今度はノリスの背後から今回のダークホース、レッドブルのJr.ドライバー #18 ダニエル・ティクタム(モトパーク・ウィズVEB)が迫り今年の新チャンピオン、ランド・ノリスに揺さぶりをかける。

 13周目、3位のマキシミリアンから7位の #26 ペドロ・ピケ(VAR)までが1秒以内の大接戦。さらにこのラップのメルコヘアピンでは全車のテールとノーズがタッチする状態にまでなり、各車の間隔はほぼゼロに。
 
 コーナーでは後続を何とか振り切っているマキシミリアンだったがストレートではあっさりとVW勢に追いつかれ、14周目のマンダリンでスリップにつかれ、リスボアのアプローチではマキシミリアン、ノリス、#25 ラルフ・アーロン(VAR)、ピケの4ワイドに。
 
 ここでマキシミリアンは同じメルセデスエンジンを積むアーロンとピケは抑えられたもののVWパワーには勝てずティクタムとノリスの先行を許してしまう。さらにサンフランシスコヒルの入り口でアーロンにも刺されてしまい6位へと後退。

 レースはその後、トップ2台がゴールラインの僅か数百メートル手前でクラッシュするという大荒れの展開となり3位を走行中のティクタムがまさかの優勝。
 
 クラッシュしたセッテ・カマラとハプスブルクのパーツがコース上に散乱するのを掻き分けながらマキシミリアンは1ポジション繰り上がり5位でフィニッシュ。
 
 残念ながらこれが今年のセオドールレーシングの最上位となった(2014年のニコラス・ラテフィーと同じワースト・タイ)。

 一方の周は終始8番手前後を走行。サードグループのトップにいたものの、それ以上詰める事はできず、結局8位でゴール。
 
 タイヤ交換とギヤボックストラブルで大きく遅れをとったカラムとミックはそれぞれ15位、16位で完走となった。

 第64回マカオグランプリ FIA F3ワールドカップは残念ながら、片手に勝利を掴みながらも、もう片方の手はそれを掴めず、最後は両手からスルリと抜けてしまった。
 
 これでカムバックからの5年間、5回のグランプリで優勝2回、2位が1回、5位が2回と決して悪い成績ではないが、勝つ為のチームである私達の使命からするとこのままでは終わらせられない。
 
 来年はさらに強くなってこのマカオにふたたび戻ってきます。日本からのたくさんの応援、本当にありがとうございました。

ミック・シューマッハー 2017年F3マカオグランプリ

コメント

蘇 樹輝(SJM 経営執行役員)のコメント

「今年は4人のヤングドライバーが全力で他の強豪たちとぶつかり合い、とてもエキサイティングで面白いレースを見せてくれました。彼らのモータースポーツに掛ける強い熱意にわたし達は本当に感心させられました」

「マカオグランプリは年に一度のマカオで一番、盛大なイベントです。SJMは今年もまたテディ・イップJr.とそのチームとのコラボレーションをすることで、コース上に留まらず、この週末にマカオ全域で行われたすべてのイベントに対し、わたし達とチームが互いに協力し合いながら様々な活動に参加し、沢山の楽しい時間とそこに参加した方々との思い出を創造することができました」

テディ・イップJr.のコメント

「みんなが失望するリザルトでした。二人が表彰台に登れると思っていましたが、正反対の結果となってしまいました。マカオで優勝する為にはすべてがパーフェクトでなければなりません。そこにまた時の運と言うものが加味されて初めて勝利を得られるものです」

「今週、このカジノシティは私達のラックを少々見放した感がある。しかしながらチームのすべてのドライバーは全力で戦い、しかもプロフェッショナルな働きをしてくれて、これはわたしの大いなる誇りとなりました」

#7 カラム・アイロット

「FP1はスロースタートで始めたけれど、とてもスムーズでした。その結果からQ1はセットアップを変えて出たのだけれど、とにかく凄い赤旗でクリアなアタックができずに6番手に終わってしまいました」

「FP2は4番手で終わることができてQ2に期待が持てました。Q2はセットアップをさらに詰めてニュータイヤでコースイン。と、思ったら赤旗が5回も出て結局、走行時間が短縮されてしまい、タイミングが合わず最後の最後に出たタイムでようやく3位になれました」

「予選レースでは良いスタートを切れました。3番手からすぐに2番手に上がりレース中盤はさらに良いペースで走れたのでエリクソンをパスし、さらにリードを広げられました」

「日曜日、1回目のFCYでかなりペースが崩されてしまい、再スタート後はタイヤ交換しなければならないし、コースに戻った時は全てが手遅れになっていました」

「でもこの様に予測できない事が起こる……これがマカオですよね。昨日は良い結果を出せたのに、今日はこう言う事になってとても失望しています」

#8 周冠宇

「FP1はフルアタックして6番手でした。Q1はフルアタックしませんでした。タイヤもオールドのままですしね。それで9番手はすごく良かったと思います」

「金曜日は思った以上のリザルトは出せなかったけれど、トップ10に入れたのは良かったと思います。ベストパフォーマンスを出せた訳じゃなかったのだけれど、それとは結果が違いリザルトは良かったから良しとしましょう」

「タイヤを換える前は良いフィーリングでしたが、交換後ミスをしてしまいクルマにダメージを与えてしまいました。土曜日のレースのスタートは凄く良かった。すぐに何台かのクルマをオーバーテイクしました」

「ただターン4で前のクルマがものすごく早いポイントでブレーキを掛けて、追突しそうになり自分もハードブレーキでそれを回避している間に抜き返されてしまいました。残念な結果だけれどP10だからグランプリは良いグリッドポジションを手に入れられました」

「日曜日は8位というのが良い結果でした。ただスピードは足りませんでした。レース後半はリヤのタイアに問題が発生し、6~7周目が本当に大変でした。今年のレースで色々経験を積めたので、来年はさらに良いリザルトを出したいと思います」

#9 マキシミリアン・ギュンター

「FP1は技術的な問題で多くの時間をロストしてしまいました。結果、Q1で予定より多く走りFP1で走れなかった分を取り戻しました。ほとんど前の方のタイムをマークしていましたがわたし達はユーズドのまま走っていました」
 
「他の選手はニューで走っていましたよね。このフィーリングでいってQ2でニューを履いたら良い結果になるだろうと思っていたら結果Q2はP4でした。悪く無いと思います。2列目ですからスリップを使えばトップを攻略できますからね。勝算はあると感じました」

「このセッションは赤旗が多くまた僕のクルマのスライド量がやたらと多いのが気になりました。わたし達のチームは戦略を考えて、カラムは自分より後にリヤだけタイヤを二本換えました。結果、チーム全体が良いリザルトを出せて、チーム全車がトップ10を獲得しました」

「土曜日のレースは全体的に良かったです。一時期3番手まで上がりペースも良かったのだけれどその後リヤタイヤに問題が発生。他のドライバーと同じ様な多くの困難にぶち当たりました。カマラがタイヤ交換後、僕にもの凄いプレッシャーを掛けて来ましたが、何とか押さえ込んで4位でゴールできました」

「日曜日はもうこれは失望としか言い様のないレースでした。全力を尽くし、スタートも良くP2まで上がりました。最初のFCYの時に優勝が見えていたのです」

「しかしその後、すぐにイエローが出てそこから遅れが出てしまった。一見、上手く行っている様に見えたかもしれないけど、実は左のリアタイヤがダメになってしまっていて、それはこの週末自分が一番悩んでいた問題でした」

「それでも自分は本当に全力を尽くしました。しかし5位は本当に望んでいた結果では無かったのです」

#10 ミック・シューマッハ

「マカオはとっても刺激的で自分にとって新しいチャレンジでした。初参戦で木曜日に出したパフォーマンスには満足しています。金曜日のFP2はすごく良かった。ただミステイクをしてしまって時間をロストしたけれど、その前にタイムを出すことができました」

「その後のQ2はすごく面白くて刺激的で、少しプレッシャーは感じたけれど、全体的にはスムーズな展開でした。最後のコーナーでタイムに影響するアクションを出してしまったけれど7番手タイムだったから悪くないと思います」

「土曜日のレースは凄くエキサイトなレースでした。もっと良い結果を出したかったけれど難しかったです。スタートも良かった。バトルをしていて良いポジションを取ろうとしたら自分のブレーキのタイミングがずれて真っ直ぐ行ってしまいその後コースに戻れた。その後のペースも維持できて良かったと思っています」

「日曜日のギアボックスの問題以外はこの週末は刺激的でとても良かった。最後はペースを掴めてファステストをマークできたことは本当に良かったと思う。このマカオを走ったと言う経験は自身の将来の為にとても良い経験になると思います」

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