「福岡発 売り子名鑑」キリンの頂点に立つN01売り子 特技は護身術?

キリンビールの「りの」さん【写真:福谷佑介】

「坂本選手に会えるかも…」で始めた売り子、最高記録は289杯

 球場の新たなエンターテインメントとなっている「売り子」。美女どころといわれる福岡のヤフオクドームで働くアサヒビール、キリンビールの両メーカーの売り子を不定期連載で紹介してきた「福岡発 売り子名鑑」は、今回が最終回。日本シリーズも終わり、ついにシーズンオフとなった今季。これまでにも紹介してきた売り子さんに今シーズンで会えるのは、11月26日に行われる「ファンフェスティバル」が最後となる。

 最終回となる第33回はキリンビールの「りの」さん、だ。

 大学3年生の「りの」さんはソフトバンクの本拠地ヤフオクドームで働く数多くの売り子の中で、キリンビールのトップに君臨する超売れっ子。自身最高記録は今シーズン中に達成した289杯。まさにナンバーワンと呼ぶに相応しいキャリア4年目の売り子である。

 今やナンバーワンとなった「りの」さんだが、売り子を始めたキッカケは、何ともミーハーな理由だったという。売り子としてのキャリアをスタートさせたのは高校3年生の春。高校の先輩からの誘いがあったのだが、「その当時、巨人の坂本勇人選手を格好いいなと思って野球を見ていたんです。先輩が誘ってくれて『もしかしたら坂本選手に会えるかも』という高校生の浅はかな考えで始めたんです」

 売り子1年目の11月、ヤフオクドームで侍ジャパンの壮行試合が行われた。この試合が終わった後のこと。「ゴミ捨てに行った時に、坂本選手とたまたますれ違ったんです」。売り子の世界に飛び込むキッカケとなったミーハーな希望が叶ったのだが、「『あ、会えた』と満足して、そこで一気に熱は冷めました」という。

「辞める理由もなかったので」と何となく続けた2年目が転機となった。「売り方も覚えてきて、だんだんビールが売れるようになっていったんです。私、それまでの人生で自信をもってコレが出来るというものが無かったので、せっかくやるなら上を目指そうと思ったんです」と決意し、研究を重ねるようになった。

 当時、キリンビールには「ひなこさん」というナンバーワンがいた。「同じエリアで売っていて間近で見ていたので、すごく勉強になりましたし、その人を越えようと目標に思ってやりました」。大先輩の動きを見て盗み、アドバイスももらった。「私の2年目が、ひなこさんの最後の年でした。ひなこさんから『この号店をりのちゃんに引き継ぎたい』と言っていただき、なお一層頑張らないとと思いましたね」。かつてのレジェンドから直々に後継指名も受けたのだ。

 その後キリンビールのナンバーワンに上り詰めた彼女。その秘訣は一体どこにあるのか。聞いてみると、売れっ子の売れっ子たる秘密が出てくる、出てくる…。

ナンバーワンの秘密「流れを把握」「他の売り子の動きも把握」

「平日のナイターであれば、このエリアはこの時間に人が入り出すという“流れ”があるんです。自分が売っているエリアの流れは把握して動きますね。他には、例えば、あるエリアに今売り子の人数が多いとみたら、違うエリアに移動してみたり、あるエリアには30分間くらい売り子がいなかったからとそこに行くとか。その通路、そのエリアだけじゃなく、必ず全体を必ず見回しています」

「ほかの売り子も誰がどこにいるか、売れる子はだいたい把握しています。それはキリンだけじゃなく、アサヒの売り子さんのことも見ています。メーカーが違うので、この人がいるところには行かないほうがいいかなというのもないので、あえて(アサヒで売れている)この人がいるから行ってみよう、と。そういうのも考えていますね」

「あとは当然、お客様を覚えることですね。(売れる子と売れない子は見ただけで)分かります。1年目のときの私もそうだったんですけど、売れない時にコンコースとかで折れちゃっている子がいるじゃないですか、そういう子は絶対に売れません。慣れていなくてもすごく一生懸命な子であれば、買ってもらえるんですけど、声がない子、元気がない子はなかなか買ってもらえませんよね。売れる子は1年目でも常連さんが出来ていますし、動き方も全然違います」

 考えなしに動いているわけではない。トップにたどり着いた人気の売れっ子には、見えない努力が隠されていた。

 その美貌からは想像できないが、小学校1年生から極真空手を習い、小学校3年生から今も続けているというのが護身術だ。「ドラマのごくせんを見ていて、やりたいと言ったらしいんです…。すぐ刺激を受けて、コレやりたいアレやりたいってなるんです」。今では2段を持つ有段者になった。

 来季は大学4年生となり、就職活動が始まる。「航空関係を目指していたんですけど、ここで働いて、いろいろ考えるようになりましたね」と、売り子を経験したことで進路の選択肢が広まった。「本当に一生懸命売り子を頑張れるのは今年までだと思っていました。就職が早く決まればいいんですけど…」。三塁側内野席と左翼外野席が売り場。5年目の来季が、いよいよラストイヤーとなる。

「周りの方々の支えがあったからこそ、ここまで頑張ってくることができました。ドームで一生懸命働いていますので、ヤフオクドームに来ることがありましたら、ぜひ私のことを探してみてくださいね!」

(Full-Count編集部)

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