観客席から見たACL決勝

アジア王者をかけたACL決勝2ndレグを観客席から観戦。サポーターたちの目線から見た歴史的な試合のリポートです。

Jリーグ勢としては9年ぶり、浦和レッズとしては10年ぶりのアジア制覇を目指して戦われた、ACL決勝2ndレグ。58,000人近いサポーターが駆けつけた埼玉スタジアム。今回はその歴史的な試合を、観客席からの目線でレポートします。

特別な試合にするための雰囲気作りはスタジアムの外から

同行者撮影

日本でも屈指の熱狂的なサポーターを有する浦和レッズ。10年ひと昔とよく言いますが、ひと昔前の決勝戦を現地で観戦した人や今度こそスタジアムで観戦を願う人々で、チケットの入手は困難を極めました。

試合の数日前には、スタジアムを鮮やかに埋め尽くすために、クラブの応援旗を持ってきてほしい、とTwitterで発信。1000をこえるリツーイトがなされているのが分かります。

そして、そんな中でチケットを手に入れた人々が埼玉スタジアムに集結。当日の浦和美園駅(埼玉スタジアムの最寄り駅)から埼玉スタジアムへの歩いて15分ほどの道には、様々な弾幕や張り紙が貼られており、この試合を特別なものにしたい、と“ホーム”の雰囲気づくりに努めたサポーターたちの想いが感じられました。

筆者撮影

筆者撮影

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筆者撮影

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スタジアムへ続く道の時点で独特な雰囲気を醸し出していた試合当日。

もし自分自身がアウェイのサポーターとして来場した場合は、難しい試合になりそうだ、と容易に想像できたでしょうし、プレッシャーを感じたことでしょう。実際に旗を振りながらスタジアムへ向かう人もちらほら見かけ、サポーターたちの気分の高まりを肌で感じました。

試合前のスタジアム。圧巻のコレオグラフィー

スタジアムに入ると、試合前、ゴール裏で中心となって応援しているグループの人たちが、手分けをしスタジアムのいたるところに出向いて、コレオグラフィーを作り上げるためのプラスティックシートの掲げるタイミングや、一緒に声を出して選手を後押ししてほしい、とのお願いをしていました。

試合前のウォーミングアップのために、選手が出てきたタイミングで、「Pride of Urawa」の文字とともにその応援歌が歌われます。ゴール裏だけでなく、スタジアム全体から響く歌声と、無数の応援旗は試合前ながら鳥肌が立つような光景でした。

筆者撮影

そして、先日SNS上で人種差別を受けたラファエル・シルバに対して、ゴール裏のサポーターたちはたくさんのブラジル国旗とともに「君のそばにいるぞ」というメッセージを掲げ、サポートする姿勢を見せました。シャペコエンセとの試合でもそうでしたが、強いメッセージを発信できるクラブが少ないJリーグの中では、浦和はやはり特殊な存在なのかもしれません。

決勝戦だったために行われたのであろう、和太鼓を使ったパフォーマンスですが、スタジアムの雰囲気は「何をしているのだろう」という、不思議なものを見るような様子でした。昨シーズンのUEFAチャンピオンズリーグのプレゲームに、WILL.I.AMなどがパフォーマンスを行いましたが、規模感から言っても、全く違ったものでした。

照明や音響を駆使し、より大規模なパフォーマンスを行えば、浦和レッズのゴール裏からパフォーマンスの途中に、チャントが起きることはなかったのではないでしょうか。

圧巻だったのは、選手入場とともにスタジアムに浮かび上がってきたコレオグラフィー。

今回のデザインは、2007年の星(ACL優勝)から2017年の星へと続く道。そしてその間にクラブのエンブレムとACLの優勝トロフィーが並ぶものでした。

「威風堂々」とともに鮮やかに映し出されるコレオを見て、一つひとつが一人の人によって掲げられていること、そして自分自身もその一部であることを想うと、選手や監督スタッフとともにみんなで勝ち取るんだ、という気持ちにさせ、スタジアムに一体感が生まれるのが感じられた、素晴らしい体験でした。

緊迫した試合。そしてラファ・シルバのゴール

浦和レッズにとっては、勝利もしくは0-0であれば優勝が決まる状況で始まった試合。1stレグよりも積極的な姿勢で試合に入ったホームチームは、前線からプレスをかけながら、奪ったボールを長澤が果敢にシュートを放つなど、モメンタムを握ろうとトライしていました。

一方のアル・ヒラルはきっとゲームプランだったのでしょうが、ある程度構えてプレー。浦和の出かたをうかがうような様子でした。それでも下馬評で上回るサウジアラビアのチームは、小気味いい短いパス交換でリズムを作り次第にペースをつかみます。

しかし両チームともに得点は生まれず、0-0でハーフタイムに入ります。

ハーフタイムの最中には、試合前同様にトラメガを持った人がスタジアムを回り、「戦っている選手たちの頑張りに応えよう。みんなで肩を組んで選手たちを迎えよう」と各所で声掛けをおこなっていました。

埼玉スタジアムでは恒例となっている「歌え浦和を愛するなら 決めろ浦和の男なら」の大合唱とともに選手たちをピッチに迎え入れます。ボールボーイも肩を組んで飛び跳ねる姿は、他のスタジアムではなかなか見られません。

後半に入り、得点が必要なアル・ヒラルがより積極的にプレーし始めたことで、浦和は守る時間が長くなりました。前線でフィジカルの強いCB2枚を相手にしなければいけない展開となった興梠は苦戦。なかなかボールが収まりません。

カウンターやセットプレーでチャンスを作りながらも、ビジターチームの猛攻をしのぐレッズ。イエローカードをもらっていた宇賀神を下げてマウリシオを投入したり、ラファエル・シルバと興梠のポジションを入れ替えたりし、守備組織が崩れないことをベースに考えながら、相手にも精神的、肉体的なプレッシャーをかけ続けていました。

アル・ヒラルの中心選手のひとりだった、サレム・アル・ダワサリが2枚目のイエローカードをもらって退場になったことで、俄然有利になった浦和。そして試合終了間際の88分、西川のキックの跳ね返りを武藤がワンタッチでラファエル・シルバへパス。相手ディフェンダーとうまく入れ替わったブラジル人ストライカーが右足一閃。貴重な貴重な決勝点をゴールに突き刺し、ついに浦和が先制します。

この瞬間、スタジアムのサポーターの喜びが爆発。老若男女がともに歓喜し抱き合い、手を合わせる姿がそこかしこで観られました。私自身も見ず知らずのおじさんたちと抱き合って飛び跳ねて、その瞬間を分かち合いました。

スタジアムでフットボールを観戦する醍醐味のひとつに(このようなビッグゲームでは特に)人と人とがボーダーを越えて、たくさんの人たちと一瞬一瞬を共にできることがあると思います。ラファエル・シルバのゴールは、そのことを改めて感じさせてくれました。

10年ぶり2度目のアジアチャンピオン

長いながい4分間のアディショナルタイムを耐え抜き、ついに試合終了。Jリーグ勢としては9年ぶり、浦和レッズとしては10年ぶりにACLを制覇しました。

周りでは、歓声を上げる人、満面の笑みで隣の人と抱き合う人、夢心地でピッチを見つめる人、こぶしを突き上げる人、それぞれがそれぞれに歴史的瞬間をかみしめている様子でした。

セレモニーに移るときに、スタジアムには再びコレオグラフィーが浮かび上がり、選手や監督、スタッフたちを祝福します。

優勝トロフィーの授与に先立って発表された、この大会のMVPに選ばれたのは柏木陽介でした。印象的だったのは、賞を受賞した後に観客席に向かって頭を下げ、「みんなのおかげで獲れた賞なんだ」というようなジェスチャーをしたこと。もちろん惜しみない拍手と声援が送られていました。

そしてトロフィーの授与。自身としては2度目のACL優勝となった、キャプテンの阿部勇樹がアジア王者の証を掲げるとともに、金色の紙吹雪が夜空に舞い上がります。苦しいシーズンを過ごしてきた選手をはじめとする監督やスタッフ、そしてサポーターたちにとっては、すべてが報われた瞬間だったのではないでしょうか。

式典の終了後に選手たちととに「We Are Diamond」が合唱され、浦和レッズサポーターたちにとっての、喜びと誇りに満ちた夢のような夜が幕を閉じたのでした。

最高の雰囲気を作り出したサポーター。スタジアム全体で勝ち取った優勝

スタジアムに実際に足を運び、サポーターたちと同じ目線で観戦したACL決勝戦。一日を通して感じたのは、浦和レッズのサポーターたちのクラブに対する愛と、闘う気持ちでした。きっとあの場にいた多くの人々が、自分たちは選手に力を与えられる、相手にプレッシャーをかけられるんだ、と信じて声援を送っていたのではないでしょうか。

慣れない環境で戦うACLは難しいコンペティションではありますが、このような大会を経験することは、確実に選手の成長につながりますし、異なるカルチャーを知ることはサポーターたちにとってもいいことだと思います。この優勝をきっかっけにJリーグのクラブがACLで常に優勝を争うようになることを願うばかりです。

そして、日本全国で埼玉スタジアムとまではいかなくとも、満員のスタジアムが多くみられるようになることも期待したいです。万雷の声援が響くスタジアムこそ、フットボールの醍醐味のひとつなのですから。その醍醐味を味わわせてもらった決勝戦でした。

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