【現地ルポ】〈メキシコ自動車市場と日本のものづくり(上)〉現地生産化で部品需要増へ 米政権方針、影響じわり

 消費人口の拡大、北米向けを中心とする輸出増加に伴い、近年自動車生産台数が急速に拡大するメキシコ。年産規模は2020年に年500万台まで増え、インド、韓国を抜いて世界第5位の生産国に成長すると目される。今後の市場規模の広がりが確実視される中、各国の完成車・部品メーカーが相次いで生産拠点を開設。ティア2、3クラスの日系部品メーカーも徐々に工場を新設し、日本品質の製品づくりを始めている。現地生産化の流れの中で段階的な部品需要増加が見込まれる中、日本のものづくりはメキシコ自動車市場にどう貢献し、浸透していくのか。進出する日系企業の取り組みを交えながらレポートする。(佐野 雄紀)

今年、生産台数が歴代最高水準

 16年、メキシコの自動車生産台数は過去最も多い346万台まで増加。今年も10月までに約320万台を記録し、歴代最高となる見通しだ。

 この増勢は1億2千万人を超える人口のうち30歳未満が半数以上という消費人口の多さと、近年の所得水準向上による需要増加が一つの要因。ワーカークラスの賃金が依然低く、購買力の底上げには時間を要しそうだが、内需は中長期的に拡大傾向をたどる見通し。

 これに加え、世界的な自動車需要増に伴い輸出拠点としての役割が増したことも大きい。生産台数の約8割を輸出が占め、地域別では北米向けが約85%と圧倒的に高い。

通商問題の影響

 一方アメリカはトランプ政権発足後、NAFTA(北米自由貿易協定)からの離脱を表明。実現可能性は不透明だが、現地日系部品メーカーは「直接的な影響はなく、表明直後の緊張感が和らいでいる」、「進出した以上腰を据えて生産を進めるだけ」と現在のところ静観の構え。

 離脱した場合はWTOルールに基づく関税が適用される。アメリカへの輸入乗用車の税率は2・5%と低く、メキシコ生産のコスト優位性が保たれる一方で、トラックは25%と高い。

 メキシコで生産するトラックはアメリカと並行生産されることから、トヨタやホンダ、GMなどトラック比率が高いメーカーはアメリカへ生産移管することも考えられる。

 米政権の方針に対応する形でトヨタも生産方針も見直した。グアナファト州に建設中の新工場で生産する車種を、カローラからピックアップトラックのタコマに変更。生産計画も年産10万トンへと縮小した。

 車種変更に伴い、部品メーカーに対する製品供給が難しくなるケースも発生。今後、エンドユーザーの動向次第では事業方針の転換を迫られるなど影響が広がる恐れもある。

日本車の立ち位置

 メーカー別生産台数は約50年前に完成車生産を始めた日産が20%超とトップで、GM、クライスラーなどが続く。他の日系メーカーは5%前後と伸び悩むがホンダ、マツダはそれぞれグアナファト州に工場を立ち上げ、14年から小型車の量産を開始。徐々に台数を伸ばすとみられる。

 アメリカ文化が根付き、欧米メーカーの大型車も見られる一方、日本車は街を走る車の半数弱を占めるほど浸透。小型車やSUV、最新車種も行き交う。「故障が少なく高品質」(現地ワーカー)との評価を得て広く受け入れられている。

 しかし、韓国・起亜自動車が近年、低価格を武器にシェアを拡大しつつあるほか、「いつか所有したい憧れ」(同)の高級欧州車も人気を集める。

 なおメキシコでは相続税が存在せず、貧富の差が広がる傾向にある。あるワーカーは十分な購入資金がなく、約3万ペソ(約18万円)でエンジンを積み替えて走行距離20万キロの車に10年間乗り続けているという。また多くの市民が、買い替える際には安価なマニュアル車を選ぶ。

 群雄割拠の様相を呈するメキシコの自動車市場。今後こうした手にしやすく実用性の高い車づくり、販売拡大に向けた各国自動車メーカーの競争が一段と激化しそうだ。

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