【大同特殊鋼星崎工場・操業80周年】〈石濱辰哉工場長に聞く〉「難加工品の量産化」に挑戦 働き方改革「職場」と「技」に付加価値

――操業80周年を迎えました。

 「80年の歴史の重みを感じるとともに、そうした節目に立ち会えることに感謝したい。同時に、これまで工場の歴史をつくってきた諸先輩に心から敬意を表したい」

――80年間には、生産品種や加工部門の強化など、様々な変化がありました。

 「星崎工場は、構造用鋼や軸受鋼、バネ鋼、一部ステンレス鋼など幅広い種類の鋼材の製造からスタートしている。以降、全社での様々な合理化を経て、95年には星崎工場の製鋼工場をシャットダウン。そこからまた、星崎工場の内容は大きく変わった。高級鋼の加工工場として生まれ変わってきたのが最近20年の歩み」

――在籍人員は。

 「現在工場で働く人たちは650人程度。そのうち半数程度が、下村特殊精鋼や大同テクニカなどグループ会社という位置付けで、加工を主力とした現場で従事している」

――足元の稼働状況は。

 「高水準が続いている。年末年始と夏季休暇のまとまった休日以外は、設備は稼働している。今期は、この状態が続くとみている。今年度の出荷量は、月間2万3千トン。前年度比5%程度増加している」

――増加要因は。

 「自動車関連の需要が旺盛。また、半導体製造設備なども好調」

――設備投資動向は。

 「顧客ニーズの高い棒鋼ピーリング製品のプロセス改革を推進している。今年1月末に第1期工事(3号ライン)が完了。1号および8号ラインの設備更新を行って加工の品質・生産性・機能を高めた。これにより生産性は20%以上アップした」

――具体的には。

 「顧客の表面品質ニーズが高度化していることなどに対応し、加工量の多い20~50ミリ径を扱うPM3号(ピーリングマシン)ラインを大幅に見直した。PM1、2号ラインと共通だった梱包ラインを分割し、3号ライン独自の直行ラインを新設。従来オフラインバッチ設備だった渦流探傷、中間切断をインライン配置し、ライン内で検査保証ができる体制とした。これにより、多様な梱包条件に合わせて一時的に発生していた横持ち作業ネックが解消され、1、2号ラインの効率化にもつながった。さらに今、線材の熱処理炉(STC炉)の新設工事が始まっている。来年早々に営業運転を開始する計画」

――環境貢献への取り組みは。

 「現在、全社で2020年度に14年度対比3%のCO2排出削減計画が進行中。星崎では、重油使用部分の燃料転換(都市ガス)を推進したほか、工場照明のLED化、コージェネレーションシステムの導入で順次CO2が削減している。足元では、稼働している自家発電システムの老朽化が進んでいるため、ハードをリフレッシュする計画。同時にEMS(エネルギー・マネジメント・システム)を導入する。立ち上がりは来年」

――星崎工場のものづくり文化とは。

 「当社の中でも付加価値の高い高機能材を扱っている工場として、各人のものづくりにかける気概は他工場に勝るとも劣らない。特に、他工場で圧延できないような難加工品を、知恵と工夫で量産に結び付けるという部分は、やはり先駆者魂が生きているといえる」

――80周年の記念事業として、食堂棟を一新しました。

 「10月に竣工・オープンした。オープンテラスの設置や開放感のある建築構造により『働きやすい職場づくり』の環境を整備した。新食堂棟は工場の中央西側になり、清潔でゆとりがあり、関係者が集えるスペースになった」

――地域貢献活動は。

 「4月に工場のグラウンドを開放して観桜会を開催。同時期に、地域の子供たちを対象にした美術作品展を開催している。6月の後半には、ホタル園を開放して夜間に観賞会を開催している。また、秋の祭典では近隣学区対抗の運動会として歴史がある。年末には、環境報告会を開催して地域の代表の方にお越しいただき、1年間の環境改善活動を発表している」

――地域への環境貢献活動などは。

 「大気、水質、騒音などについて、定例の監視活動を徹底し、毎月のデータを報告会の際に公開している」

――現行中期経営計画の最終年度となるが。

 「星崎工場は戦略商品を多く扱っており、営業と一体になった拡販がおおむね計画通りに推移している。特に、ステンレス鋼、高合金などは成果が出ている。一方、工具鋼はまだ課題が残っている。新中期に向けては、やはりステンレス鋼、高機能材料をいかに拡販していくかが課題になるだろう。そのための能力増強投資などが星崎工場の課題になりそう」

――今後、自動車のEV化が進みますが。

 「今後10年ぐらいは、よく見ていかなければならないが、内燃機関を使った自動車が急になくなるとも思えない。引き続き省燃費、軽量化などのニーズは高まるだろう。そのため、我々が得意とする耐食、耐熱材料のニーズは高いと思われるし、星崎工場としてそのニーズにしっかり応えて量産化と生産の効率化を図っていかなければならない」

――人材育成のポイントは。

 「ダイバーシティということがよく言われるが、星崎でも昨年女性の現場オペレータ要員が2人、配属になった。今後も女性の採用は拡大すると見ているので、対応したインフラ整備も不可欠になるだろう」

――働きやすい職場づくりを進めているが。

 「例えば、終業時間についての意識をもっと高める必要がある。星崎では水曜日をノー残業デーとして早期退社を働きかけている。そのことで生産に影響するかと言えば、それはない。むしろその分生産性は高まっていると見ている」

――OJT教育も重要です。

 「トラブル時のOJT教育の徹底で、トラブルは減ってきた。今後は、IoTを使ったマニュアル作りなども推進していきたい。星崎工場の80年のモノづくり文化の良い部分は積極的に将来に引き継ぎ、高付加価値製品の生産・加工を通じて社会に貢献できる工場として、切磋琢磨していきたい」

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