【この人にこのテーマ】〈日本製鋼所の次期中計「JGP2020」〉《宮内直孝社長》産業機械、収益性保ち規模拡大 大型鋳鍛鋼品の製品転換推進、鉄鋼は黒字定着へ

室蘭の再建、最大の課題

――まず今年度までの現中計の総括をうかがいたい。

 「素形材・エネルギー事業に関しては、福島原発事故以降の厳しい社会情勢や市場環境に照らして大型鋳鍛鋼品の需要回復への思いを込めた中計だったが、むしろこの1、2年で市場環境は一段と冷え込んでいる。室蘭関連の減損処理や人の流動化などで今期は営業黒字化できる見通しだが、中身は当初計画から大きく変わっている」

日本製鋼所・宮内社長

 「産業機械事業の市場環境は逆に想定を上回る好調さだ。EV化の動きを含めた自動車需要がここまで盛り上がるとは当初考えていなかった。業績は好調だが、当社だけが好調な訳ではない。市場環境の恩恵を実力だと勘違いしてはいけないと考えている」

――次期中計では「産業機械で『成長』、素形材・エネルギーは『新生』」を掲げ、「経営資源の最適化とアライアンスの強化」「アフターサービス(ストック型ビジネス)の強化」「新規事業探索、育成の活性化」をポイントに挙げている。

 「最大の課題は室蘭製作所の再建だ。大型鋳鍛鋼品の製品転換を進めて、鉄鋼事業では売上高400~450億円で黒字を出せる収益体質を構築する。その上で鉄以外の素材系事業を育成し、将来は室蘭の事業規模を600億円程度に拡大したい。製品転換や黒字定着の取り組みは前半の1年半が勝負になる」

――室蘭関連では月島機械と薄板溶接品などの製造の協業に向けて検討を開始した。

 「両社にメリットがある方策を検討していく。先ほどの鉄鋼事業の規模には今は含めていない」

――新規事業関係では10月に研究開発本部を改編し、技術戦略室と新事業推進本部を設置した。

 「技術戦略室はメガトレンドを見据えた新規事業探索、新事業推進本部は航空機・水素・結晶・成膜の4分野の育成と事業化推進などに取り組む」

 「技術戦略室では長期的視野を含めて有望な分野を探索し、提携関係も含めて事業化を考えていく。アライアンスに関して言えば、注力分野を見極めて構想を練っておき、具体的案件が浮上した時に速やかに検討できるようでなければいけない。今までは現有製品を強化しよう、周辺に手を広げようという発想だった。今後は現有製品の周辺の製品もあれば、全く新しい製品に進出することもあり得る。次期中期で複数案件に取り組み、その次の中期で数字にできればいいと考えている」

 「過去にもM&Aを含めたアライアンスを組んできたが、受け身の案件が多かった。今後は攻める姿勢でアライアンスを組んでいきたい。重量式フィーダ(二軸押出機に安定して原料を供給する装置)で国内トップのクボタさんと事業提携したり、ジーエムエンジニアリングさんとシート装置事業で協業に向けた検討を行ったりしているのは攻めの姿勢に転じている現れだ」

――新事業推進本部の4テーマで室蘭関連は。

 「結晶と航空機部材がそうだ。水素関連は産業機械事業を含めた全社案件であり、圧縮機と蓄圧器を組み合わせた小型パッケージユニットなども手掛けている。室蘭では水素貯蔵合金技術の活用などを考えている。結晶はファインクリスタルに加えて事業譲受で10月にファインクリスタルいわきを本格スタートさせた。結晶事業は当面年50億円規模を目指す。航空機部材は防衛機器で経験のある炭素繊維素材であり、長期的に力をつけて行きたい」

総合樹脂機械で世界首位

――日本製鋼所は造粒機、押出機、射出成形機など樹脂製造・加工機械、成形機械などをそろえる世界トップの総合プラスチック機械メーカーでもある。この強みもうかがいたい。

 「樹脂溶解プロセスの理論はまだ解明されていない。研究所を中心に理論化は勿論進めているが。経験と過去の実績が豊富であり、かつ充実した試験設備を保有していて、完全に理論化できていない領域でもお客様の要求に適応できる、そうしたノウハウが強みになっている。射出成形機についても、原料に対する知識や分析力があることで問題への解決力があるのが強みだ」

アフターサービス事業強化

――次期中計において、産業機械事業では収益性を維持しながら規模の拡大を指向する。

 「事業拡大を指向することで機械販売の平均利益率は落ちるが、機械販売の増加によりアフターサービス事業も拡充できる。その結果、産業機械事業の利益率はある程度維持できると考えている」

 「アフターサービス事業は樹脂製造・加工機械、射出成形機、レーザーアニール装置で伸ばそうとしている。安定収入源として強化・拡大を目指している。2000年代前半までアフターサービスを事業としてきちんと捉えていなかったが、ここ数年は姿勢を大きく変えている。06年に三菱重工業さんからフィルム・シート製造装置事業を譲受したことも転機になった」

 「ここ数年力を入れてきたとは言え、今までは営業マンが足で稼ぐやり方だった。データベース機能などIoT活用によるサービスの変革、向上も進め、受け身のサービスからソリューション提案へ転換する。そのためのシステム開発も行う。グローバル体制の強化も進め、レーザーアニール装置では中国拠点を中心にしたサービス体制の強化も進める」

――個別製品についてもうかがいたい。まず海外売上比率は。

 「造粒機は100%海外で、TEX(二軸混練押出機)も半分は海外だ。射出成形機は7割近くが海外だが、日系ユーザー向けがほとんどだ。フィルム・シート製造装置も半分は海外だ」

――フィルム・シート製造装置では20年度までに生産能力を現行比倍増する。

 「フィルム・シート製造装置はリチウムイオン電池向け需要が旺盛だ。すでに19年の話もいただいていて、20年までは好調を持続するだろう。置き場の改善や一部設備の増強を進める。その先はまだ不透明なので、その間に見極めていく」

――射出成形機ではマス・カスタマイゼーション戦略を打ち出している。

 「共通化された基本部分をベースに、地域、顧客ニーズに対応したカスタム仕様の機械を提供し差別化を図っていく。大量生産だけでは当社の強みが生かせないし、かつての当社のようなカスタマイゼーションだけでは品ぞろえの拡充や競争力強化に限りがある。昨年投入した新機種から移行を進めている」

© 株式会社鉄鋼新聞社