【現地ルポ】〈メキシコ自動車市場と日本のものづくり(下)〉品質、管理手法に高評価 従業員教育などに課題も

サプライチェーン

 拡大するメキシコ自動車市場に対し、サプライチェーンも構築されつつある、というのが日系企業関係者の認識。しかしチェーンが整備されたタイなどと異なり、その脆弱さを口にする向きも多い。

 例えばティア2以下の供給能力が不足、輸入で必要数を補うことも少なくない。今後の生産台数の伸びに対して、チェーン全体の構築ペースが追い付いていないといった声も上がる。

 設備などの補修、メンテナンス機能も依然弱い。現地業者の数が少なく技能が不十分であることから、自社にメンテ機能を備えることを検討する企業も多い。金型も同様で、予備を含めた複数の型を日本で作製し輸入するのが基本だという。

日系部品需要

 日系部品は世界最高の品質だけでなく、加工法や管理といった生産工程全体の質の高さが評価され、現地での引き合いが増加。部品メーカー各社は自動車産業の国際マネジメント規格、IATF16949の取得を通じ、さらなる販路拡大に取り組んでいる。

 日系ユーザーに加え、近年では欧州のティア1、2クラスの部品メーカーが相次いで工場を建設。自国で取引する〝得意先〟がメキシコに未進出のため、広くサプライヤーを探す部品メーカーも多く、非日系へ拡販を図る機会も多くありそう。

 欧州自動車メーカーは部品メーカーを系列化しないため「販売先として大いに注目している」と、虎視眈々と採用拡大を狙う加工メーカーも見られる。

 一方、足元では素材高などを理由とするコスト競争力の弱さ、日系部品メーカーの知名度不足がネック。PR強化や仕入れの多様化など、中長期的な数量増に向け、製販両面の工夫が求められる。

日本流ものづくりと現地ワーカー

 品質、工程管理の手法が好評を得る日系部品、加工メーカー。日本で展開する5S、ものづくりの考え方を移植し、同一品質の実現を狙うというのが基本的な考え方だ。

 メンテを含めた設備の安定稼働維持だけでなく、高品質体現のカギを握るのが現地ワーカー。しかし、吊荷の下に入るなど安全意識を欠いた行動が見受けられるのも現状だ。「安全意識、当たり前にやる文化、自発的に提案する文化を段階的に醸成する必要がある」(日系企業幹部)。

 部品メーカーの多くは足元量産体制に移行しつつある、いわば始まりの段階。稼働状況に余裕がある現在、集中的に安全や5S、QCおよび改善文化を現地ワーカーに根付かせようと取り組みを強化する動きが目立つ。

 加工方法、製品形状を説明する上でニュアンスが伝わりにくい場合には、専用マニュアルを作成し、写真を活用しながら日本式のものづくりを浸透させようと努める加工メーカーも見られる。

 なお現地ワーカーの賃金は日本の5分の1以下と安く、工業団地周辺を除いて不足感はない。ただ前述の教育が不可欠なほか、平均5~10%程度、クリスマス休暇後は15%以上に上る離職率の高さも問題視される。

製品供給

 自動車関連ユーザーに対し、日本ではジャストインタイムでの供給が不可欠。最終形状に近い製品で客先納入するケースは同様だが、特殊鋼線材など素材では事情が異なる場合もあるようだ。

 これは日本からの母材輸送に時間を要することから、ボルトなどのファスナー材メーカーが多くの二次加工後製品を在庫したいと考えるため。

 置場確保へ専用建屋の建設など対応に迫られる形となるが、こうしたサービス対応力の高さという日本の強みを生かし続けることで、さらなる受注拡大につながる可能性が一段と高まるだろう。

日本の製品、ものづくりが果たす役割

 自動車産業の広がりが確実視される一方、部品供給能力やサプライチェーン、現場教育などメキシコでの「ものづくり」は依然成長途上にある。半面、これは各部品の生産、サービスで現地参入する多くの機会がある、または日本の製品やものづくり手法が浸透する余地が多く残る、とも言える。

 磨きをかけ続け、世界トップレベルの品質や管理手法を確立した日本流ものづくり。時にその形を「現地化」しながらメキシコ製造業に広く浸透、貢献する可能性が大きい。(佐野 雄紀)(おわり)

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