【第3回】共に生きる勇気得る 発達障害者が集うカフェ  「排除ない優しい社会へ」

発達障害者の居場所「ネッコカフェ」に集う人たち=東京都新宿区(撮影・藤井保政)

 東京都練馬区に立つ築150年の古民家「けやきの森の季楽堂」。昨年12月4日、ここを貸し切って引きこもりの当事者や家族、支援者たちが対話する集まり「庵(IORI)」が開かれた。
 約80人の参加者が六つほどのグループに分かれる。「発達紹介」という案内書きのある机を囲んだ人たちは、金子磨矢子さん(63)の話に耳を傾けた。
 「私も発達障害だが、生まれながらの個性であり、悪いものではない。早めに見つけ、親が理解して伸び伸び育てよう。ノーベル賞を取った人もいると言われている」

 ▽うれしい発見

「発達紹介」の机で参加者に語り掛ける金子磨矢子さん=東京都練馬区(撮影・牧野俊樹)

 やがて聞いていた人たちが自分のことを打ち明け、金子さんが応じる。
 A子さん「どうして人と違うのか、子どものころから悩んできた」
 金子さん「つらかったよね。私も物は片付けられないし、時間が管理できず、遅刻ばかり」
 B男さん「広汎性発達障害だが、薬は副作用ばかりで効かない」
 金子さん「ほぼ遺伝なので薬では治らない」
 C子さん「鉛筆の並べ方からこだわってしまい、適当にやれない」
 金子さん「楽になるには開き直るしかない」
 D男さん「聴覚過敏がとてもきつい」
 金子さん「耳が良すぎるのね。視覚過敏や臭覚過敏の人もいる」
 そして「いろいろな人がいることをみんなが理解すれば平和なのにね」「生活していくのは大変だけど、そんなものだと思ってやっていくしかないよ」と金子さんはこの日の話を結んだ。
 彼女が自分は発達障害ではないかと気付いたのは1997年。その一つ注意欠陥多動性障害(ADHD)を解説した書籍「のび太・ジャイアン症候群」(司馬理英子さん著)に出会い、書かれている症状が自分にほとんど当てはまったからだ。
 同書によれば、ADHDには「ドラえもん」に出てくるジャイアンのように活動的(多動)なタイプや不注意が多い「のび太型」があるという。
 「他人と違うのは努力が足りないからで、駄目な人間だと思っていた。それが生まれつきの脳の機能障害とは、うれしい発見だった。のび太型だと思ったが、広汎性発達障害と診断された」

 ▽「ネッコ」誕生

 金子さんは、発達障害と関わることが生活の中心となっていく。
 まず自閉症の協会に入ると、当事者の体験談を多く聞けた。「親に配慮してもらいたかった」と振り返る人がいた。
 成人の当事者の会が生まれ、2006年に新宿御苑へピクニックに行ったときのことをよく覚えている。昼食時は名前を言うのがやっとだった男性がしばらくすると、お笑い芸人のものまねをして、みんな大笑いした。
 会員制交流サイト(SNS)のオフ会では「発達障害者あるある話」で盛り上がった。

 ただ金子さんは、ファミリーレストランや公民館などで開く会では、話し込んだり活動を広げたりするには、限界があると考えるようになった。
 10年に知人から「千葉県で精神障害を持つ人や家族が集まるカフェを開いた」と聞き、発達障害者が集える居場所づくりを決意。しかし、不動産業者が取り合ってくれず、物件の仲介を軒並み断られた。
 ネットで偶然見つけた東京都新宿区西早稲田の「事務所店舗可」というビル2階の物件を問い合わせると、業者は「応援する」と言い、大家も理解を示してくれた。
 こうして11年9月に誕生した「ネッコカフェ」には、全国から発達障害の当事者や家族らが訪れている。年末年始以外は年中無休。スタッフも全員発達障害者で、正午~午後6時はコーヒーやハーブティーなどを出すカフェ、同6~10時はフリースペースとなる。
 カフェに来ていた20代の女性は「人と話せるから」と訪れる理由を話した。ここで開かれる勉強会や交流会、フラワーアレンジメントの教室なども楽しみという。

 ▽当事者の声もっと

 引きこもりや発達障害に詳しいジャーナリストの池上正樹さん(54)は「引きこもりの人をネッコカフェへ連れて行くと『居心地がいい』と言っていた。生きづらさを抱えた人たちが出会い、励まされ、話し合う中で共に生きていくことへの勇気を得ている」とみる。
 金子さんも制定に向けてロビー活動に加わった発達障害者支援法が昨年改正され、子どもから大人まで切れ目なく、憲法が保障する「基本的人権を享有する個人としての尊厳」にふさわしい生活を送れるよう支援することが目的に掲げられた。
 「改正で大人の発達障害にも着目し、やっと生存権が認められた感じ。もっともっと当事者の声を聞いてほしい」と金子さん。「発達障害者を排除しない社会は、全ての人に優しい社会になるはずだ」と信じているという。(共同=竹田昌弘)

 

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