《音楽日々帖》“アムロス”から振り返る90年代後半の音楽

 安室ちゃん、引退。「平成のひとつの時代が終わった」とも言われますが“ アムラー” が社会現象となったのは、阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件が起こり経済不況のまま世紀末へ向かう、平成の中でも特に暗い時代でした。当時小学生だった私にとって、ベストアルバム『181920』に収められた95~97年のシングルは「お姉さん世代への憧れ」そのものでしたが、あらためて聴き直してみてハッとしたのは、歌詞の暗さです。いちばん印象に残るのは「寂しい」で、ほかにも「切ない・こわい・傷つく・永遠・守る」という言葉が頻出。なにかに怯えながら大切なものを必死で守ろうと戦う、そんな女性像が浮かびました。言い換えれば、そういう曲が共感を呼ぶ時代でもあったのでしょうね。

 90年代後半には他にも、暗さの中に「媚びないかっこいい女性」を感じさせる音楽がたくさんありました。たとえば、98年にオリコン1位を獲得したザ・ブリリアント・グリーンの「冷たい花」。絶妙なマイナーコード使いに「傷つけ合う・絶望・ぶっ潰す・蹴り散らす」という破壊的な歌詞の曲を女性が歌っているというのが衝撃的でした。椎名林檎さんが「幸福論」でデビューしたのも98年です。ギターをかき鳴らし「何も望まない。愛する人が生きているだけで幸せ」と歌う潔さ。先が見えない時代であるほど、幸せの形は根源的になっていくのかもしれません。

 多感な年齢の頃に聴いて、生き方にまで影響を与えてくれたあの頃のヒット曲。それはまるで20年来の戦友のようです。

安室奈美恵『181920』

小室哲哉のプロデュースが始まった「Body Feels EXIT」から「Dreaming I was dreaming」までを収録したシングル・コレクション。タイトルはシングルリリース時の年齢から

エイベックス・トラックス 1998

The Brilliant Green 『The Brilliant Green』

デビューアルバムにしてミリオンヒット。ブリットポップに影響を受けたサウンドとボーカル・川瀬智子の気だるい歌い方が特徴的。アートワークの暗さは2枚目と対照的

ソニー・ミュージックレーベル 1998

椎名林檎 『無罪モラトリアム』

本人の10代が詰め込まれたデビューアルバム。「ここでキスして。」「歌舞伎町の女王」収録。「幸福論」はシングルとアレンジが異なる。ミリオンヒットを記録

EMI ミュージック・ジャパン 1999

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