アバンティリゾートクラブの不誠実な「引き際」

 事業を停止していた旅行業者、(株)アバンティリゾートクラブ(TSR企業コード:293361851、新宿区、臼井良司社長、以下アバンティ)が11月20日、東京地裁から破産開始決定を受けた。第1種旅行業者として海外ツアーなどを企画し、実績もある中堅旅行業者だったが、10月12日以降、営業停止を知らせる貼り紙を残し音信不通になっていた。予約、入金を済ませて出発を待つばかりだった顧客は突然の出来事に困惑した。さらに混乱に拍車をかけたのが、一般顧客だけでなく旅行代金の弁済業務を手掛ける日本旅行業協会(JATA)や取引業者など関係先にも一切の報告、連絡がなかったことだ。
 営業停止から1カ月あまり。一連の不誠実な対応は、(株)てるみくらぶ(TSR企業コード:296263001、渋谷区、山田千賀子社長)の破産でクローズアップされた「旅行客無視」の姿勢と重なる。旅行業界全体に禍根を残しかねない倒産劇だった。

アバンティリゾートクラブの本社

アバンティリゾートクラブの本社

 アバンティの変調が露呈したのは10月11日夕方だった。東京商工リサーチ(TSR)の情報部は本社へ急行し、従業員から話を聞いた。すると「社長と10日から連絡が取れない。資金繰り悪化で主要先に支払いが止まっているが、事業は続けていきたい。現段階ではツアーに支障は生じていない」と言う。ところが翌12日、従業員は出社せず、オフィスには「資金繰り・業績の悪化に伴いこれ以上の業務継続が困難な状況となり、営業停止せざるを得ない事態となりました」との張り紙だけが掲示してあった。「今後のお問い合わせは下記消費相談室まで連絡ください」として、被害者への弁済業務を行うJATAの連絡先を記していた。
 てるみくらぶの余波が冷めやらない旅行業界でまた破綻か…。事務所には情報を聞きつけたテレビ局など多数のマスコミ関係者が殺到した。だが、その日は時折、取引先の担当者が訪れる程度で大きな動きはなかった。アバンティに旅行商品の販売を委託している旅行業者の担当者は、「アバンティと一切連絡が取れない。委託販売分については、持ち出しの形で催行するしかない」と渋面で話した。
 一方、後処理を「丸投げ」された形のJATAは対応に追われた。TSRの取材に対し、JATAは「アバンティから何の連絡もなく困惑している」とコメント。事業の全体像や個別の契約状況、一般旅行者の被害状況さえ把握出来ていなかった。
 騒動はその後1カ月以上も続いた。この間、JATAは弁済保証制度に則り、ホームページ上に専用ページを開設し被害者の弁済業務に着手した。しかし、会社側からの連絡は一切無く、社長とは連絡がとれないまま。今後の整理の方針やスケジュールなども示されず、JATAが被害者対応に混乱したであろうことは想像に難くない。第1種旅行業を管轄する観光庁の担当者は、「今日(11月30日)までアバンティから連絡は一切なく、こちらからコンタクトを取ろうとしても連絡がつかない。夜逃げ状態だ」と話す。
 こうしたなかアバンティは11月20日、破産を申請し同日、破産開始決定を受けた。裁判所が選任した破産管財人からの連絡で、ようやくJATAの関係者は破産の事実を知ったという。
 アバンティの弁済業務保証金限度額は7,000万円。一方、破産申立書に基づく一般被害者は397口(1,128名)で総額6,500万円とされる。この通りであれば一般被害者には全額弁済されるが、JATA側の集計と突き合わせて精査するまで全額弁済にこぎ着けられるか不透明だ。これまで会社側からの情報開示が全くなく、突き合せ作業もこれからだ。
 被害総額を抑えることができた背景には、他社企画の旅行商品を当社経由で申し込んだ場合(受託販売)、企画した旅行会社が責任を持って保証し、催行していたことを見逃せない。通常、受託販売分は販売手数料を差し引き、販売会社から旅行を企画・実施する会社に入金される。しかし、アバンティが破綻したため入金は見込めない。アバンティの負債総額はトータル4億9,700万円だが、このなかには、結果的に「タダ働き」となった取引先の旅行会社の債権も相当数含まれているとみられる。


 てるみショック以降、旅行予約の多様化による売上低迷や業界の構造的問題など、旅行業界の話題には事欠かない。アバンティの破産も経営環境の悪化が要因の一つにある。だが、旅行という特殊な商品を多数の一般顧客に販売する企業だけに、アバンティの破綻後の対応はあまりに無責任、不誠実と言わざるを得ない。こうした事例が続けば、「中小の旅行会社で旅行を申し込むのはリスク」という考えが広がり、業界全体の地盤沈下に繋がりかねない。知名度が乏しい中堅規模以下の旅行業者にとっては死活問題にもなる。
 アバンティのホームページは10月11日深夜に切り替わって以降、事務所に掲示された張り紙と同一の内容のままだ。被害を被った一般旅行者はもちろんだが、被害を最小限に食い止めるために奔走した取引先や関係者は、どのような思いで破産手続きを見届けるのだろうか。

 (東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2017年12月1日号掲載予定「取材の周辺」を再編集)

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