日本一ホークス最大の痛手に? 鉄壁守備の“生みの親”鳥越コーチの退団

今季限りでホークス退団となった鳥越コーチ【写真:藤浦一都】

独走Vのホークス、歴代最少タイ38失策の裏にあった鳥越コーチの指導

 2年ぶり8度目の日本一に輝いたソフトバンク。8月頭まで楽天とのデッドヒートを繰り広げながらも、楽天の失速もあって終わってみれば、2位西武に13.5ゲームの大差をつけた独走Vだった。楽天とのクライマックスシリーズ・ファイナルステージは連敗スタートからの3連勝。日本シリーズは3連勝のあとに連敗を喫したが、4勝2敗で制して頂点に立った。

 第6戦は延長11回にもつれ込む大激戦となり、最後は劇的なサヨナラ勝ちだった。日本一を決めたその翌日。熱狂の余韻も冷めやらぬ11月5日に、球団からのプレスリリースが流れた。1つは松坂大輔投手の退団、もう1つが大隣憲司投手、島袋洋奨投手への戦力外通告。そして最後は佐藤義則投手コーチ、鳥越裕介内野守備走塁コーチ、清水将海バッテリーコーチら今季の日本一奪還を支えた3人コーチがチームを去るというものだった。

 その後、佐藤義則コーチはかつて在籍した楽天へ復帰、そして鳥越、清水両コーチはダイエー時代のチームメートだった井口資仁が新監督に就任したロッテへの移籍がそれぞれ発表された。

 ダルビッシュ有、田中将大を育てたとして名コーチと呼ばれた佐藤投手コーチ、そして今季台頭した甲斐の成長を支えた清水コーチの退団はもちろんソフトバンクにとって痛い。だが、それ以上に痛手となりそうなのが、1999年から2006年まで選手として、2007年からはコーチとしてホークスを支えてきた鳥越コーチの退団だろう。

ホークス今宮は“鳥越チルドレン”の代表格【写真:藤浦一都】

“鳥越チルドレン”の代表格だった今宮

 2006年に現役を引退した鳥越コーチは2007年、ホークスの2軍内野守備走塁コーチに就任。秋山幸二監督が監督に就任した2009年からは2年間、2軍監督を務めた。2011年からは1軍内野守備走塁コーチを務め、7年間に渡って選手を指導し、チームを支えてきた。

 鳥越コーチといえば、とにかく厳しいコーチであった。キャンプでは毎日のように全体練習終了後の特守で、若手野手を中心にノックの嵐を浴びせかけた。試合前の練習などでも、緩い空気を許さずに厳しく指導を続けてきた。ソフトバンクの試合前に行われるシートノックを見ると分かるが、一切の妥協を許さない、真剣味溢れるシートノックがグラウンド上では繰り広げられた。

 今季のチーム失策数は歴代最少タイとなる38失策。選手個々の能力の高さがあるのはもちろんのことなのだが、この鉄壁の守備を作り上げたのは、鳥越コーチのこれまでの働き、指導の積み重ねによるところもあった。

“鳥越チルドレン”の代表格が、今や押しも押されもせぬ球界を代表するショートストップとなった今宮健太である。2010年にプロ入りした際、鳥越氏は2軍監督だった。ルーキーだった今宮はプレー面だけでなく、生活態度や礼儀といった面を厳しく教え込まれたという。キャンプでの全体練習後の特守は、ファンにとっては見慣れた恒例の光景であった。

 その鳥越コーチが19年間籍を置いたホークスを去る。かつての盟友である井口が新監督となったロッテの1軍ヘッド兼内野守備走塁コーチとなった。パ・リーグの覇権を争う相手指揮官の参謀である。ホークスの手の内を知るだけでなく、妥協を許さないスタイルが浸透すれば、それはまた手強くなることだろう。

(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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