【トップインタビュー 岸和田製鋼・鞠子重孝社長】「販価、何としても引き上げ」 下期もビレット輸出検討

――上期業績と下期の見通しについて。

 「スプレッドの悪化で上期は赤字だった。数字は公表していないが厳しい結果だ。下期も厳しい。鉄スクラップ価格が足元で3万5千円前後に上昇している半面、製品出荷価格の上げ足はゆっくりだ。製品価格をしっかり上げていかないと、下期も厳しい結果になる。何としても上げていく」

――市場環境について。

 「上期も実需は伸びなかったが、下期も期待しにくい。全国的には首都圏を中心に増加傾向だが、当社が地盤としている関西市場の異形棒鋼需要は減少している。関西の土木需要は4~6月が前年同期比2%増で多少増えたが、足元は横ばい状態だ。建築は4~6月が同13%減、7~9月も5%減。こうした状況は当社の販売面にも現れた」

岸和田製鋼・鞠子社長

――実需が伸びない中、下期をどう乗り切る。

 「需要増が期待しにくい一方、鉄スクラップ価格の上昇に加えて、電極、合金鉄など諸々の副資材価格や輸送費の上昇もある。ここは製品価格の引き上げおよび維持が最優先だ」

――ビレット輸出など海外向け販売では。

 「上期はビレット輸出をある程度実施した。多い時で月1万トンほど輸出した。下期も価格が見合うなら継続したい。ただ、これも鉄スクラップ価格次第だ」

――ビレット輸出が増えた理由は。

 「中国からの東南アジア向けビレット輸出が減少したことが大きい。中国の『地条鋼』が撤廃されたことで、中国電炉の生産分が内需に向かい、輸出余力がなくなっている。統計によると、昨年の中国からのビレット輸出は2940万トンだったが、今年に入って月100万トン、年率予想で1千万トン以下に減少している。昨年の三分の一以下の水準だ。このためアジアのビレット市況が上向き、日本からの輸出の余地が出てきた。下期も引き合いがあれば、価格次第だが対応していく」

――新商品開発や設備投資は。

 「新規の設備投資計画はないが、この数年間投資してきたことが少しずつ効果を出してきている。今年2月に稼働し始めた受注・生産・出荷や総務・経理などすべてを網羅した全社管理システムは、現在は微調整をしながら運用しているが、この効果が少しずつ出始めている。来期はさらに効果を出したい。製品では2年前にD41ミリまで生産サイズを拡大し、従来の細物メーカーからベースサイズ・メーカーとしての存在感が少しずつ出てきている。2011年に生産開始した高強度せん断補強筋向けのSD785、14年からのSD685鋼種の生産も順調だ。グループ会社の岸和田金属も同鋼種を使った『スーパーフープ』製品の販売が増えてきている」

――新本社の建設は。

 「岸和田鉄工団地内の、現在の工場や事務所にほぼ隣接する場所に4階建ての事務所棟を建設してきたが、ほぼ完工した。12月25日に新本社に移る予定だ。管理部門や営業・購買など事務部門が1カ所に集約できる」

――当面の展望を。

 「鉄スクラップの動向が気がかりだ。世界全体を見ると、スクラップの使用量が年々増加している。鉄鉱石由来の高炉品だった薄板・厚板など鋼板、線材などが、スクラップ由来の電炉品に切り替わってきている。また中国からの鋼材輸出減でアジアなどの電炉生産が増えていきそうだ。このためアジアを中心にスクラップ需要はさらに高まり、価格もさらに強いと見ざるを得ない。そうした見通しに立つと、改めて、製品価格をしっかり引き上げて維持していくことが重要になる」(小林 利雄)

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