単なるワガママとは違う? 過度な「自己中心主義」と心の病気の関係

自己中心主義が強すぎる……性格か、心の病気か

我が強くてワガママな、現代の「オレ様子ども」。まだ「子ども」なら、ある程度自己中心的でも当たり前ですが、大人になっても、度が過ぎた自己中心主義でいたら、周りの人は大目には見てくれないでしょう。

ここでは、ただのワガママでは済まされない、自己中心主義に関連する心の病気として、成長して大人になったあともまだ続いている「多動症」、そして、自己中心主義が少し行き過ぎた、誇大自己的な「パーソナリティ障害」の2つを詳しく解説します。

自己中は誤解! 落ち着きがなくなるADHD

もしも自分が話している時、相手が話を聞いていないように見えたり、話が終わらない内に何かをし始めたりしたら、あまり良い気持ちはしないでしょう。注意散漫や落ち着きのなさといった特質は、本人のイメージを悪くするばかりか、仕事がうまくいかない原因になりやすいです。そして多くの場合、こうした問題は幼少時から始まります。

小さい子供が落ち着きなく、いつも動き回っているのは、当たり前ですが、親の手に余るような時には注意が必要です。家や学校で問題が起こるレベルになると、注意欠陥/多動性障害(ADHD)の可能性もあります。

ADHDは決して稀な病気ではなく、実は子供の数%程度だと推定されています。ADHDでは、その3大特徴である注意不足、多動性、そして衝動性から以下のような、あり得る症状の中から、幾つかがはっきり出てきます。

注意不足の症状

・細かい注意に欠けやすく、ミスをしやすい

・物事に注意を保てない

・会話中、相手の話を聞いていないように見える

・何かをする前に、その説明によく耳を傾けていないので、うまくいかない

・手際よく物事をこなすのが苦手で、特に、宿題などをさぼりやすい

・勉強しようと思っても、鉛筆がない、あるいは、電話をかけようとしたら、名刺をなくしてしまったりと、何かをしようと思った時、必要なものがない

・ちょっとしたことで、気が散り、物事に集中できない

・待ち合わせの時間や、用事をよく忘れる

多動性の症状

・座っている時、手足を頻繁に動かす

・着席していなければならないのに、席をはずしてしまう

・落ち着きがなく、じっとしていられない

・話し出したら、なかなか止まらない

衝動性の症状

・相手から何か聞かれても、話が終わる前に答えてしまう

・順番を待てない

・人の話や遊びにちょっかいを出しやすい

ADHDは、多くの場合、大人になると問題が目立たなくなります。それでも一部の方は、注意不足や多動性あるいは衝動性が残ったまま大人になっていくことがあり、それゆえに、生活上、トラブルがおきやすくなることがあります。

他人とうまくいかず、気持ちが落ち込みやすくなったり、病気の症状がまわりに誤解を与えてしまって、それが原因で仕事を辞めてしまうようなことも起こり得ます。それでは次の、誇大自己的な「パーソナリティ障害」を詳しく述べます。

自己中は誤解! 誇大自己が進みやすいパーソナリティ障害

誰でも自己中心的な傾向はあります。しかし、その傾向が進めば、次第に、他人を尊敬できなくなり、自分のみ大切にするようになってしまいます。

自分には能力があり、何でもできる、こうした前向きな気持ちは、仕事や勉強においてプラスにも働きますが、自己の能力を過信するようになったら、周囲との関係が悪くなっていき、日常生活にさまざまな支障が出てくると思います。以下のような症状が見られる程、ナルシスト的傾向が強くなった場合は、自己愛性パーソナリティ障害の可能性もあります。

・人の批判に耐えられない

・自分の夢を達成することに取りつかれている

・自分は特別な人間だと思う

・他人から賞賛を常に受けたい

・他人からの特別扱いを望んでいる

・自己の目的を達成するためなら、平気で他人を利用する傾向がある

・人の気持ちを気にかけなかったり、場の空気を読まない

・他人を嫉妬しやすい。また、他人は自分を妬んでいると思い込みやすい

・他人を見下すような態度をとりやすい

自己愛性パーソナリティ障害の原因自体は不明のレベルですが、考えられる要因として、親のしつけの問題があります。例えば、子供と親との関係が必要以上に近い場合、特に、過保護で溺愛しているような場合です。

そうした子供は常に親から愛されているという安心感を抱く……と思えそうですが、もしも、何かの際に親が子供に注意を向けなかったりしたら、その時、子供は親から愛されているという安心感を失い、親から愛される為に、もっと自分を完全にしたいといったナルシスト的な傾向が出てくる可能性もあります。

一方、多動症(ADHD)の原因は、詳細自体は、これまた不明のレベルですが、決して親のしつけのせいではなく、むしろ、生まれる前の脳の発達段階で何か問題が生じたためだと推定されています。例えば、妊娠中のアルコールの過量摂取やウイルス感染などが、胎児の脳の発達にネガティブな影響を与えたことが、ADHDの要因として挙げられています。

最後に、ここまで自己中心主義と関連する心の病気として、多動症と自己愛性パーソナリティ障害の2つを述べてきましたが、親のしつけと関係があるのは、自己愛性パーソナリティ障害の方です。一方、多動症は親のしつけとか、本人の性格の問題ではなく、脳に何かしら原因があって生じた、心の病気の1タイプだということは、ちょっと意外だったかもしれません。

中嶋 泰憲プロフィール

千葉県内の精神病院に勤務する医師。慶応大学医学部卒業後、カリフォルニア大学バークレー校などに留学。留学中に自身も精神的な辛さを感じたことを機に、現代人の心の健康管理の重要性を感じ、精神病院の現場から、毎日の心の健康管理に役立つ情報発信を行っている。

(文:中嶋 泰憲(医師))

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