鉄鋼能力過剰問題協議の多国間会合、政府支援の除去など閣僚会合で合意 解決に向け大きく前進

 鉄鋼業の能力過剰問題を協議する多国間の枠組み「グローバル・フォーラム」(GF)は30日、ドイツ・ベルリンで閣僚会合を開き、非効率設備の温存につながる「市場歪曲的な政府支援措置の除去」といった政策的解決手段を、中国を含む33の参加国・地域がそれぞれ実施していくことで合意した。実効性を高めるため、少なくとも1年に二度、取り組み状況を検証する仕組みも導入する。この合意に法的拘束力はないが、鉄鋼市場の健全な発展を阻害してきた『過剰能力問題』の解決に向けた世界的な取り組みが大きく前進する。

 GFは合意内容を報告書にまとめ、G20(20カ国・地域)に提出した。報告書で示したのは(1)グローバルな課題と集団的解決策(2)市場歪曲的な支援措置の除去(3)公平な競争条件の確保―など六つの原則。この原則を前提に参加国間で情報を共有、実効ある取り組みを促す。

 過剰問題の解決につながると期待されるのが「市場歪曲的な支援措置の除去」。こうした支援措置は非効率設備を温存させ、公正な国際競争を阻害する最大の要因と指摘されている。GFは支援措置の除去が問題解決にとって不可欠との立場から、報告書の中で重要な柱の一つに位置付けた。

 政府支援措置をめぐっては、WTO協定で禁止されている補助金を含めさまざまな定義がある。報告書は除去すべき支援措置として、(1)市場原理に基づかない金融支援・債務の証券化(2)電力や原料などの優先割当(3)鉄鋼業に対する輸出補助金、免税制度―などを例示。WTO協定の禁止事項以外の支援措置も問題をはらむ行為と指摘した。

 中国を含むすべての参加国は今年夏までに企業別の生産能力などのデータをGFに提出した。ただ、支援措置に関するデータは現時点でほとんど集まっていない。GFは今後、支援措置の実例などのデータ提供を求めるとともに、同データの共有方法などを検討する。

 GFは取り組みの実効性を高めるための検証の仕組みを導入する。データの更新作業、検証作業を最低でも年に2回実施。その上で検証結果を共有するため年に3回、GF会合を開催する。取り組みの進ちょくを年末までにまとめ、G20などに報告する予定。

 OECDの推計によると、世界全体の過剰能力は2016年時点で7億3700万トンに上る。最大の過剰能力を抱える中国が16年以降、能力削減に本腰を入れるなど、過剰能力の解消に向けた取り組みは前進し始めたが、7億トン超のギャップの解消にはまだ時間がかかる見通し。GFでの合意には法的拘束力がないため、問題解決は中国をはじめとする参加国・地域の独自の取り組みにかかっている。

 今後は検証作業の仕組みをどう構築し、実効性につなげていけるかが課題となるが、中国を含むすべての参加国・地域が政策的解決手段をとることで合意した意味は大きい。

国別の生産能力を公表/中国は10.7億トン

 グローバル・フォーラムは30日にまとめた報告書の中で、国別の鉄鋼生産能力を公表した。参加国が提出したデータに基づく数字で、こうしたデータが公表されるのは珍しい。GFが今後進める検証作業などのたたき台となる。

 16年時点の生産能力は中国が10億7330万トンで最大。以下、EU(欧州連合)2億2357万トン、日本1億2994万トン、インド1億2633万トン、米国1億1323万トンと続く。33の参加国・地域の合計能力は20億3142万トン。

 15~16年の変化を見ると、中国マイナス5500万トン、EU同約1200万トンなど、各国・地域で能力削減が進んでいることがうかがえる。この中で増加が際立つのがインドで1648万トン増。過剰能力問題では中国に関心が集まっているが、今後はインドの動向にも注意が必要となる。

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