【特集】「失敗作」の汚名返上に、切り札の新型車両

スーパーあずさE353系

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JR東日本の新宿駅(東京)に入線する新型車両「E353系」=2017年11月22日(筆者撮影)

 「失敗作」とやゆされる現行車両の汚名返上なるか―。JR東日本が新宿(東京)と松本(長野県)を結ぶ中央線の特急「スーパーあずさ」に、新型車両「E353系」の営業運転を12月23日に始める。中央線の特急用車両登場は約16年ぶり。世界文化遺産の富士山や、国宝の松本城などを訪れる外国人旅行者の増加が追い風となる中で、現行車両には乗り心地への不満の声が相次いでいる。E353系は巻き返しの切り札となるのか、運転開始を控えて試乗した。(共同通信=経済部・大塚圭一郎)

 ▽「慎重に準備」と関係者

 「8時ちょうどのあずさ2号で」の歌詞で知られる兄弟デュオ「狩人」のヒット曲「あずさ2号」で一躍有名となった特急「あずさ」。名称は松本市を流れる梓川(あずさがわ)にちなみ、1966年12月12日に中央線で初めての特急列車として誕生した。

 沿線は観光名所が豊富な上、甲府や松本があり、腕時計といった精密機器の生産が盛んな長野県の諏訪湖周辺も抱えているためビジネス客の利用も多い。しかし、高速道路の整備に伴ってバスの路線網が広がり、顧客獲得競争が激化。対抗策として94年12月に運転を始めたのが新宿―松本を約2時間40分で結ぶ「スーパーあずさ」で、特急「あずさ」より約20分短縮した。

 時間短縮のため、山間部を縫うように走る中央線に多いカーブを高速で走れるように工夫した。その“処方箋”として開発したのが「スーパーあずさ」の現行車両「E351系」だ。カーブを走行時に車体を最大5度傾けて遠心力を緩和させる「制御付き自然振り子」をJR東日本で初めて採用し、スピードアップに一役買った。

 ところが、運転を始めると振り子を活用したカーブ走行に対し、利用客から「乗り心地が悪い」「欠陥ではないか」といった不満の声が相次いだ。JR東日本幹部も「車掌が酔って嘔吐したこともあるほどで、失敗作と社内で受け止められている」と打ち明ける。そんな後ろ向きの評価を物語るように、中央線の特急用車両として2001年12月にデビューし、新宿と松本などを結ぶ「あずさ」と新宿―甲府などの「かいじ」に使う「E257系」には車体傾斜制御装置を搭載しなかった。

 E351系は不興を買った振り子に加え、老朽化も進んだことで、高速バスとの顧客争奪戦で不利に働きにかねない。巻き返しのために、改良した車体傾斜装置を採用し、快適性を高める工夫を凝らしたのがE353系だ。2015年7月に完成した量産先行車の走行試験を中央線で繰り返し、結果を反映させて改良を施した量産車が今年10月に誕生するまで2年余りの歳月を投じたのは「E351系の評判が悪かったのを踏まえ、導入に向けて慎重に準備を進めてきた」(JR東日本幹部)ためという。

 ▽信濃路の魅力を詰め込んだ設計

 いわば「物言い」がついた現行車両の乗り心地を改善し、高速バスに対抗する使命を担ったE353系。12月23日に12両編成の3編成、計36両がそろい、「スーパーあずさ」8往復のうち半分の4往復がE353系に切り替わる。

 JR東日本の関係筋によると、同社は約2年間にわたって導入を続け、来年3月のダイヤ改正にも全ての「スーパーあずさ」をE353系で統一後、「あずさ」と「かいじ」のE257系も置き換えて中央線特急をE353系に一本化する(E257系の動向などは拙稿「国鉄型車両『絶滅危惧種』の行方(1)」をご参照https://this.kiji.is/231671930435175926)。

 そんな中央線特急の次世代の「顔」に乗り込んだのが、今年11月22日に開催された新宿を発着して大月(山梨県)と往復する試乗会だった。

 通勤通学客らでごった返す朝の新宿駅のプラットホームで待ち受けていると、まるで大都会に吹き込んできた高原のそよ風のようにさわやかなアルパインホワイト色の列車が入ってきた。この色が南アルプスの雪を表現しているのをはじめ、車両デザインには豊かな自然と世界に誇る観光名所を抱える信濃路のモチーフを随所に採り入れている。先頭部の貫通扉を彩る青みのあるメタリックグレー色は、国宝の松本城の青みがかった漆黒をイメージした。

 足を踏み入れた普通車の内装は、南アルプスと梓川の清らかさをコンセプトとした落ち着いた雰囲気が特色。環境にも配慮し、車内照明にはJR東日本の在来線特急で初めて発光ダイオード(LED)を採用して「車内照明の消費電力は、蛍光灯を使っているE351系より4割少ない」(同社)のに加え、空気清浄機を設けた。次の停車駅などを表示する車内LEDは、フルカラーで表示できるようにして視認性を向上させた。

 座席に腰掛けると懐具合が潤沢とは言えず、普通車の“常連”であるしがないサラリーマンの私は「間違えてグリーン車に乗っているのではないか」と居心地が悪くなるほどのプレミアム感を味わった。中央線特急では他にE257系のグリーン車だけが備えている可動式のまくらがあり、高さを自分の頭の位置に合わせて動かせる。

 しかも、空調の吹き出し口を開閉でき、上着を掛けるフックの位置を動かせるなどきめ細かい配慮を施している。ビジネス客らの利用獲得を強化するため、座席のテーブルを大きくしてパソコンが置けるようにし、各座席に電源コンセントを用意したのも特色だ。

 ▽乗り心地の判定は…

 試乗したE353系は東京都内の立川まで中央線をほぼ一直線に滑らかに進み、沿線に住む私が通勤電車で立っていると足もとがぐらつくポイント(分岐器)部分も滑らかに通り抜けた。縁の下の力持ちとなっているのが新幹線や豪華寝台列車「トランスイート四季島」に使っている先端技術で、揺れを検知すると反対方向に力を加えることで左右の動揺を抑える装置「フルアクティブサスペンション」だ。量産先行車は一部先頭車両とグリーン車だけに搭載していたが、量産車では全ての車両に設けた。

 それ以上に真価を問われるのが、曲線走行時に車体を傾ける「空気ばね式」だ。傾斜角度は最大1.5度にとどめ、振り子式のE351系の最大5度より小幅にとどめている。高尾を過ぎてからのカーブが多い山間部で確かめるとスムーズな曲がり心地で、同じ区間でE351系に乗った際のように、左右に振れるロデオのような荒っぽさはない。沿線在住者のひいき目もあるかもしれないが、私は乗り心地を「合格」と判定した。

 ▽普通車をグレードアップした狙いは

 このように現行車両から大きな飛躍を遂げた印象があるE353系だが、JR東日本の収益性という観点で一つの疑問が生じる。可動式まくらを新たに備えるなど普通車をグレードアップさせた結果、グリーン券の購入が必要なため収入増につながるグリーン車の優位性が薄れる「もろ刃の剣」になっているのではないか。

 グリーン車にはカーペットが敷かれ、通路が赤く染まった「レッドカーペット」はVIP好みの仕様であろう。ひじ掛けも普通車より豪華で、背もたれが倒れる角度が大きいなど高級感を演出する。しかし、普通車も十分に快適なだけに、グリーン車にステップアップしたいという強い動機を見いだせないのだ。

 にもかかわらず、なぜ普通車の座り心地の改善に踏み切ったのか。考えられる理由は二つあり、一つは火花を散らす高速バスに対抗するのに主力となる普通車の競争力を高めたのであろう。残る一つを読み解くヒントとなるのが、普通車のそれぞれの座席の頭上に備えた小さなランプだ。

 同じランプは常磐線の特急用車両も備え、運行中に既に活用されている。指定席券が発売済みの座席は緑色に、空席ならば赤色に光る。この仕組みの導入に伴って常磐線は自由席を廃止し、座席の指定を受けていない利用者は指定券と同額の切符で赤色のランプが点灯している席に座れる仕組みに改めた。

 おそらく中央線の特急も、全ての列車をE353系に統一する約2年後にも自由席を廃止するのではないか。そうなれば自由席利用者には事実上の値上げとなる。対策として普通車の装備を拡充し、納得してもらう思惑があるのではないだろうか。

 JR東日本八王子支社運輸部車両課の鈴木均課長が「最新の技術を盛り込んだ非常にいい車両なので乗車していただき、ぜひとも快適な車両を実感してほしい」と期待を込めるE353系。JR東日本にとって「中央線は常磐線とともに在来線特急の柱」(幹部)という“看板商品”を担う存在にふさわしく、大車輪の活躍を見せてくれそうだ。

E353系に置き換えられるJR中央線の特急用車両E351系(左)と、E257系のツーショット=2017年11月11日、東京都国分寺市(筆者撮影)
E353系の普通車=2017年11月22日
E353系の試乗列車の車窓から見た特急用車両「E257系」が走る様子=2017年11月22日、山梨県(筆者撮影)

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