【新日鉄住金釜石製鉄所 操業状況と今後の展望】〈米田寛所長に聞く〉室蘭・八幡からシフト、生産最適化で安定供給 需給タイトの特殊鋼線材

 特殊鋼線材の需給タイト化を受け、新日鉄住金は複数ミル体制を最大限に生かした最適なプロダクトミックスに取り組む。君津や釜石で製造可能鋼種の拡大を検討し、特殊鋼線材圧延の一部を室蘭、八幡から君津、釜石にシフト。鉄源についても君津鉄源の室蘭での活用、和歌山鉄源の八幡での活用を進める方針だ。シフト生産の一翼を担う釜石製鉄所の米田寛所長に現在の操業状況などをうかがった。(小室 慎)

――足元の状況を。

 「鉄鋼需要は総じて堅調に推移している中で、特に自動車向けを中心とした特殊鋼線材の需給が非常にタイトになっている。室蘭、八幡の生産は極めてタイトであり、釜石と君津に一部生産をシフトし、柔軟・最適な生産体制でお客様に納期面でご迷惑をかけないよう安定供給に努めている。釜石も普通鋼線材・特殊線材含めて、おおむねフル稼働の状態だ。年明けからは生産シフトがより本格化し、高水準の生産計画となっている」

新日鉄住金釜石製鉄所・米田所長

 「釜石製鉄所はスチールタイヤコード、ボルトやナット向け冷間圧造用線材(CH)など自動車向け特殊鋼線材を主力商品とするほか、針金、フェンスなど普通鋼線材も生産する。輸出は中国、アメリカ、台湾向けなどを中心に行っている。今秋には釜石港の公共埠頭でガントリークレーンの供用が開始し、小ロット対応に適したコンテナ輸出も従来に増して競争力がついた。昨年度下期から今年度上期までは余力基調だったが、足元は急速にタイト感を増している。18年度も今と同水準の需要環境で推移すると見ており、安定供給に万全を期したい」

――電力事業については。

 電力事業は2000年から操業開始し、現在約15万キロワットの出力で岩手県唯一の火力発電所として県内発電量の3分の1を担っている。化石燃料の一部代替として木材を活用した木質バイオマスに取り組み、16年度には新エネルギー財団の「新エネ大賞」経済産業大臣賞を受賞した。今後も計画的に設備のメンテナンスを行い、混焼率向上など技術革新を進め電力の安定供給に注力したい」

――設備投資に関して。

 全社的に最適な生産・連携構築に取り組む中で、鉄源供給元の君津・圧延の釜石間で品質管理を一貫で見れるような体制づくりは整っており、一貫最適生産の強化をさらに進めたい。技術は人と設備に宿る。会社の財産のベースは人で、技術の進化は設備の進化が支えるため設備投資は重要と考える」

――釜石の復興状況は。

 「釜石市全体の人口は約3万5千人で、そのうち約2千名が仮設住宅に居住する状況にある。当所は釜石市をはじめ関係機関と連携して地域復興に向け敷地を提供し、これまで210戸の復興公営住宅の建設につながった」

――2019年開催のW杯ラグビーは釜石で2試合の開催が決まった。

 「釜石にとってラグビーは特別な競技だ。どのような支援ができるか現時点でわからないが、ボランティアやOB活用などを通じて全面的にバックアップし、製鉄所として最大限W杯に携わっていきたい。釜石開催は世界中からご支援いただいた震災復興への恩返しだと考え、その一助になりたい。その中で全世界に釜石の鉄の歴史、釜石製鉄所もPRできたらよいと考える」

――昨年、製鉄所創業130年を迎えた。今後の釜石製鉄所については。

 「1886年に創業し私が31代目の所長になる。歴史ある系譜に入れていただき身の引き締まる思いだ。釜石には〝釜石イズム〟と呼べる脈々と続くDNAを感じる。歴史と伝統ある当所は常に挑戦し、変革し続けてきたからこそ歴史が維持できていると思う。厳しい時代を乗り越え、新商品・新技術を時代の変化に伴って培ってきた。2、300年と今後も事業を続けていくためにも、変化・変革、釜石のものづくりに対する強い信念をベースにした製鉄所であり続けたい」

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