マンションで火事を起こしたら損害賠償はどうなる?

賃貸マンション・アパートにおける火災で損害が発生した場合、失火した借主から見て相手が隣家か家主かにより、損害賠償責任の扱いが変わってきます。損害賠償責任が生じたときに備える方法としては、賠償責任保険や類焼損害担保特約が挙げられます。

賃貸マンションで火災を起こしたら損害賠償責任はどうなる?

賃貸マンションや賃貸アパートにおける火災で損害が発生した場合、賠償責任はどうなるのでしょうか。また、その損害賠償に保険で備えるならどんな商品・補償があるのかを解説していきます。

賃貸マンションで火災の損害賠償責任は「相手」によって異なる

まず、持ち家ではなく賃貸の住まいに居住していて火災が起きたときの法律関係を確認しましょう。賃貸物件でも当然、失火責任法(参考「失火責任法とは? 重過失と損害賠償責任」)が適用されます(重過失の有無がポイント)。ただし、失火によって損害が発生した場合、失火した借主からみて、相手が隣人か家主かによって損害賠償責任が変わってきます。

隣室・隣家の人に対して

失火責任法が適用されます。原則、失火によって類焼した相手に対しては損害賠償責任が発生しません(重過失の場合は除く)。

家主(大家さん)に対して

借主は、家主と賃貸借という契約関係にあります。そのため、借りた住宅を契約終了時に元の状態にして返さなければいけません。これがなされない場合、債務不履行による責任(民法415条)が家主に対して発生します。

損害賠償責任を定めた民法709条では「不法行為責任」といっていますが、前述の民法415条では債務不履行責任といいます。契約期間終了時に部屋を返すという債務を履行(実行)できないことにより、家主に対して損害賠償責任が発生します。

つまり、賃貸借契約終了後、借りていた物件を元通りにして家主に返すことができなくなったことに対する賠償責任というわけです。なお、家主に対してのこの債務不履行責任に軽過失・重過失というものは関係なく、常に責任が発生します。

賃貸物件に住んだ経験のある人は、賃貸借契約をするときに不動産屋で火災保険の加入を勧められたことがあるはずです。それは、こうした法律に基づく損害賠償責任関係が背景にあるためです。

ガス爆発は失火責任法が適用されずに損害賠償責任が発生

失火責任法を見ると「民法第709条の規定は、失火の場合にはこれを適用せず」とあります。つまり、火災なら民法709条の規定は適用しないということですが、言い換えると、火災でなければ適用する(=損害賠償責任が発生する)ということです。

具体的な事故でいうと、「ガス爆発」は火災ではありませんから失火法の適用対象外です。火災が起きた後に爆発があった場合などは異なりますが、これも頭に入れておきたいところです。

火災における損害賠償責任と失火責任法の関係まとめ

以上をふまえ、民法709条および失火責任法における一般的な損害賠償責任をパターン分けすると、次のとおりとなります(自分が火元で自分の住まいおよび隣家・隣室を類焼させたとき)。

・火災で重過失と認定されない:損害賠償責任がない

・火災で重過失と認定された:損害賠償責任がある

・借家(賃貸物件)で火災を起こした:家主に対して損害賠償責任がある

・ガス爆発を起こした:損害賠償責任がある

損害賠償責任に保険で備えるにはどんな補償がよい?

火災によって損害賠償責任が発生した場合、どう対処すればいいのでしょうか。火災保険には「失火見舞費用」という補償がついていることがあります。ただ、あくまでお見舞い金程度なので燃えた家を直せる金額ではありません。特に損害賠償については充分な補償を考えておきましょう。

持ち家(戸建/分譲マンション)の場合

■自分の家・部屋から失火して類焼=自分が加害者

個人賠償責任保険特約(個人賠償責任補償特約、日常生活賠償特約などともいう)に加入。

■近所の家・部屋から失火して類焼(もらい火)=自分が被害者

自分で火災保険(建物&家財)に加入。相手に損害賠償責任がなければ自分で補償するしかないためです。

賃貸(マンション/アパート/一軒家)の場合

■自分の家・部屋から失火して類焼=自分が加害者かつ隣家・隣室に対して

個人賠償責任保険特約(個人賠償責任補償特約、日常生活賠償特約などともいう)に加入。

■自分の家・部屋から失火して類焼=自分が加害者/家主に対して

借家人賠償責任保険特約(借家人賠償責任補償特約などともいう)に加入。

■近所の家・部屋から失火して類焼(もらい火)=自分が被害者

火災保険(建物&家財)に加入。

失火に対応するには「類焼損害補償特約」もある

自分が火元になって隣家に類焼させた場合、あるいは類焼された場合には、上記のように火災保険の補償があります。ただし、個人賠償責任保険特約のような補償は「損害賠償義務」があることが前提です。仮に火災を起こしてしまっても、重過失に認定されなければ失火責任法上は賠償責任がない、つまり、保険の支払いもありません。そうは言うものの、火事の当事者間では感情的にもめ事が起きかねないでしょう。

近年、「類焼損害補償特約」を付帯できる火災保険が増えています。隣家へ類焼した結果、類焼先の火災保険で充分に復旧できないとき、仮に法律上の賠償責任が生じないときであっても修復費用の不足分を補償するものです。

この特約は損害賠償をする保険ではなく、類焼先の火災保険に不足があるときにカバーするものです。類焼先の火災保険と重複して支払われるものではありませんので注意してください。類焼した相手が火災保険にきちんと加入していて、そこから不足なく保険金の支払いがされるなら、類焼損害補償特約からの支払いはありません。

「法的に支払う必要のないものまで火災保険をつけなくてもよい」と考えるか、「トラブルはなるべく少なくしたい」と考えるかは人それぞれでしょうが、検討する余地はある補償です。

以上のように、火災が起きた場合の損害賠償を失火責任法など法律面から理解し、その上でリスクに応じた補償の付帯を考えてみることが大切です。

※損害賠償事故には様々なケースがありますので、その点は考慮してください。

(文:平野 敦之)

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