わずかな「声」で被災者を発見するドローンの「耳」マイクロホンアレイ 東京工業大学の中臺一博特任教授、熊本大学の公文誠准教授、早稲田大学の奥乃博教授、鈴木太郎助教らの研究グループは、ドローンの発する騒音や風などの雑音を抑え、要救助者の声などを検出し、迅速な人命救助を支援できるシステムを世界で初めて開発した。

16個のマイクを搭載したマイクロホンアレイ技術

右から 東京工業大学の中臺一博特任教授 熊本大学の公文誠准教授 早稲田大学の奥乃博教授 ImPACTのプログラム・マネージャーを務める田所論氏

 中臺一博特任教授らが開発したマイクロホンアレイは、球体の装置に16個のマイクロホンを搭載し、ARMベースの処理ボードに組込み版HARKを搭載している。HARKとは、日本発のロボット聴覚用オープンソースソフトウェア。HRI-JP Audition for Robots with Kyoto Universityの略称。HARKを利用すると、音がどこから届いているのかを推定し、特定の方向の音だけを聞き分け、聞いた音を認識する。中臺教授らの研究グループでは、このHARKのパラメーターを調整し、ドローンのプロペラ音や飛行時の風切り音を「白色化」と呼ばれる無効化して、救助を求める人の「声」だけを聞き分けて、その方向を推定するシステムを開発した。開発の背景について、中臺教授は「瓦礫などに埋もれた人の救出に役立つ」と説明する。音声による被災者の発見は、カメラなどによる目視の確認とは異なり、夜間でも捜索が可能になり、大規模災害の発生時の人命救助に大きく貢献すると考えられる。開発にあたり、耐水仕様の特殊なマイクロホンアレイを開発しただけではなく、三次元音源定位手法により地図上に音源位置を可視化するシステムも開発している。これらの技術を組み合わせることにより、実験では瓦礫の中にいる人の音声を検出し、その位置を地図に表示した。また、マイクロホンアレイは、USBケーブル一本でドローンに搭載したデータ転送用ボードと接続でき、飛行中は「声」の有無や方向などの数値データだけを転送する。転送するデータが軽量なので、時速3km〜5kmの飛行速度で1〜2秒の間に、「声」を検出できる。
 今回の研究は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)のタフ・ロボティクス・チャレンジの一環となっている。ImPACTのプログラム・マネージャーを務める田所論氏は「私が聞いている情報によれば、来年度の予算で防災関係の機関が数十台の規模でドローンを導入する予定です。そうしたドローンに、今回のマイクロホンアレイと音源位置の可視化システムが採用されれば、災害時の情報収集の切り札になると思います」と語る。

開発したマイクロホンアレイを手にする中臺一博特任教授

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